せめて、もう一度だけ
そこで初めて、諒は遼くんと目を合わせた。


「美希子は僕の妻です、他人のあなたは黙っていてください」


「この状況で、他人だからとか関係ないと思いますが。


僕も当事者ですし、何よりも、美希子さんの希望を優先してくれませんか」


「美希子、なんでこの人を好きになったんだよ。


俺にはないものを持ってるっていうわけ?」


「田辺くんは、遼くんは、私を一番大切にしてくれるから。


諒はいっつも、自分優先だった。


同じ家で暮らしてるのに、別々のことばかりしてた。


子どもだって、ずっと協力してくれなかった。


だから、私の気持ちはだんだん冷めていっちゃった」



「言いたいことは、それだけ?」



諒は、私の言葉に気持ちを伝えることはしなかった。


「子どもは、俺と美希子の子どもだ。


離婚は絶対にしないから。


美希子、いい加減に目を覚ませ。


付き合いはじめはお互いに溺れてるようなもんだし、この男は、いつか他人の子どもってことを意識して、虐待するかもしれないだろ」


「遼くんはそんなことしない。


それに、虐待は誰にだって可能性があることじゃないの?


諒だって、私だって、この子を叩いたりしちゃうかもしれない。


はっきりわかるのは、このまま仙台へ戻ったら、絶対にわだかまりが残る。


もう、諒と私は、やり直せないよ」





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