せめて、もう一度だけ
そんなこと急に言われても・・・と思ったけど、話してくれる内容がおもしろすぎて、いつのまにか敬語はなくなっていた。


風の強い日、配達先の社員のカツラが飛んだとか。


運転中に信号待ちをしてたら、隣の車の運転手が熱唱してて、めっちゃ気持ち良さそうだったのに、出遅れてクラクション鳴らされてたとか。


すいてる時間なのにノロノロ運転で、先頭は何やってんだと思ったら、トラクターだったとか。



私は涙が出るほど笑ってしまった。


そして、着いたのは動物園。


田辺さんと動物園のギャップがありすぎて、驚いた。


「なんだよミキ、俺と動物園が似合わねーって思ったろ」


「少しだけ思った」


「こう見えても俺、動物好きなんだよ」


「ふーん」


「おい、俺のことどう見てんだよ」


「べっつにー」


久しぶりの動物園は懐かしくて、大人でも楽しめる工夫が多かった。



一通りまわってベンチに座ると、田辺さんは


「少し疲れた?」


真面目な顔して私に聞いた。


「ううん、平気」


「なぁ、今日って何時までいられる?」


「夫が今日送別会で夕飯いらないから、9時くらいかな」


正直に言ってから、しまったと後悔した。


これじゃまるで、帰りたくないとか一緒にいたいって言ってるみたい。


「わかった」


なのに田辺さんは、私の返事をそのまま受けとった。




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