せめて、もう一度だけ
私は気づいていた。


どうしようって悩むってことは、田辺さんに惹かれはじめているってことに。


田辺さんのことを何とも思っていなければ、すぐに断ればすむことだ。


でも、私には断るという選択肢はなかった。



だけど。


今の、諒との安定した生活を捨てる勇気はない。



だとしたら、私にできることは、ただひとつ。


田辺さんへの気持ちを抱いたまま、諒と暮らすということだ。



黙ったままの私の言葉を、田辺さんは急かすことなく待っていてくれた。


「・・・まだ、自分がどうしたいのか、わかりません」


「そうだよな、俺も自分で驚いてるんだ。


ダンナがいる人を好きになるなんてさ。


でも、出会うタイミングが間違ってるってこともあるだろ。


ミキは、今までの女とは何かが違うんだ。


こんな風に大切に誰かを想うのは、初めてだから」



そう言って、私にそっと、ふれるだけのキスをした。



諒としばらくキスもしていなかったから、久しぶりのキスの感触にドキドキした。



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