せめて、もう一度だけ
こんな風に、諒とふたりでキッチンに立ったことなんてない。


遼くんは、洗い物もすすんでしてくれて、食後のコーヒーもいれてくれて。


基本、ふたりでなんでも一緒にするのが好きな人なんだな、って思った。



「ほんとだね、どうしてずっと一緒にいられないんだろう」


ふたりで話しても、なんの解決にもならないけど。


お互いを想えば想うほど、せつなくて、身動きできなくて。


「どうしてもっと早く出会えなかったんだろ、って後悔するより、これから一緒にいる方法を考えよう」


こんな嬉しいことを言ってくれる遼くんは、年下なのに、かっこよすぎだから。


「そうだね、なるべく一緒にいたい」


私の希望を伝えるので、精一杯。



夕飯用にロールキャベツを作って、17時ごろ帰ることにした。


明日もパート先で会えるのに、さみしいと思ってしまう。


「じゃあ、帰るね」


しぼりだしたような私の声を消すように、遼くんはキスしてくれた。


「また、ふたりで会えるだろ?」


「うん」


「そんな顔すんなよ、帰したくなくなるじゃん」


無理に笑顔を作ってること、気づいてくれたんだ。



コンビニまで送ってもらって、家に向かった。


一度だけ振り向いたら、遼くんはまだこっちを見ていた。








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