せめて、もう一度だけ
「俺、美希子と別れるつもりないから」


「えっ?」


どういうつもりなのか、全然わからない。


「美希子が誰を好きでも構わない。


世間体考えたら、離婚する方がお互い損だから。


美希子もよく考えてみろよ」


「このまま、仮面夫婦でいるってこと?」


「美希子がそれでいいなら、俺は構わないけど」


諒はまた、テレビのスイッチを入れた。


バラエティー番組の騒々しい音が、部屋の中でむなしく響いていた。



暗い寝室で、遼くんにメールした。


『いま、夫に全部話しました。


私は離婚したいって言ったけれど、夫は世間体を気にして離婚しないって思ってる。


私は、遼くんだけが好きだよ。


この家では、私は家政婦なだけ』



送信が終わって画面が暗くなり、部屋の中も真っ暗になった。


これでよかったんだ。


私がいまできる精一杯のことは、やりきったんだ。


妙な満足感にひたりながら、同じ家に暮らしているのに離れている諒と私のことを考えた。


離婚したら、経済的には不安がある。


私が100%悪いから、慰謝料なんて望めないだろう。


でも、平均寿命くらい生きるとして、こんな生活で一生を終えるなんて、悲しすぎる。



遼くんと、生きていきたい。


これからの人生、やり直したい。








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