せめて、もう一度だけ
次の日、10時すぎに運送会社へ電話をかけてみた。


すぐにでも面接をしたいとのことなので、スーパーへ履歴書を買いに行き、証明写真を撮った。


ついでに買い物も済ませ、15時からの面接へ向かった。


スーツ姿で自転車に乗り、15時少し前に到着して、事務所入口近くに自転車を停めようとしたら、


「そこはジャマだから停めるなよ」


後ろから声をかけられた。


振り向くと、茶髪の作業着姿の若い男性が立っていた。


「あっすみません、どちらに停めたらいいでしょうか?」


「こっち」


そう言うと、茶髪の男性は自転車を軽々と抱えて、少し離れた壁際に置いた。


「ありがとうございました」


「あのさ」


「はい?」


「なにその格好」


「あ、面接に来たものですから」


「面接って、事務の?」


「はい」


「おまえ変わってんな、パートの面接にスーツ着てくるヤツ、初めて見た」


何か言おうと思ったけど、うまく言葉が出てこない。


その時、


「遼、こっち手伝え!」


と呼ぶ声に反応して、


「はーい、今すぐ行きます!」


と答えた茶髪の男性は、


「じゃあな」


と言って走っていった。


すぐそばに停まっていたトラックの荷台には『田辺遼(たなべりょう)』と書かれたプレートがついていた。


あの人も『りょう』っていうんだ・・・



これが、遼くんと私の出会い。



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