せめて、もう一度だけ
諦めてゆく
仙台出張から帰ってきた諒は、おみやげを渡しながら信じられないことを告げた。


「俺、10月から仙台へ異動になるかもしれない。


美希子はどうする?」


「どうするって、私は前から離婚したいって言ってるじゃない。


異動をきっかけに離婚しよう」


「美希子の気持ちは、変わらないんだな」


「ごめんなさい」


「俺の、離婚したくないっていう気持ちも変わらないんだけどな」


少しさみしそうに笑うと、私の大好きな笹かまをバッグから出した。


「まあ、これでも食べながら話し合うか」


笹かま食べながら離婚話するなんて、あんまり聞いたことないけど。


「お茶いれるね」


キッチンに立ってお湯をわかし、トレーに日本茶の準備をした。


急須にお湯を注いで、トレーで運んでテーブルに置いた。


笹かまを一口食べた。


そこで急に気分が悪くなり、トイレへ駆けこんだ。


「美希子、どうした?」


私の背後のドアの向こうから、諒の声が聞こえた。


吐ききった私は、フラフラしながらトイレを出て、倒れてしまった。


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