せめて、もう一度だけ
「美希子!」


諒が叫んでる声が、かすかに聞こえる。


大好きな笹かまなのに、もったいないな。


変なことばっかり考えた。



諒に横抱きにされ、車に乗せられた。


気づいた時は、病院のベッドの上だった。


目を開けたら、私の手を握りながら、諒が眠っていた。


「・・・諒?」


「美希子、起きた?」


諒が、ナースコールのボタンを押している。


ドラマとかでよくあるシーン。


そんなことが、自分の身におきるなんて。


医師や看護士がきて、診察をすると、


「松永さん、おめでとうございます。


妊娠8週ですよ。


少し鉄分が不足気味で、つわりもあって、気分を害されたんでしょう。


今日退院できますから、あとで手続してください。


お大事に」



自分の耳を疑った。


私のおなかに、赤ちゃんがいる?


「美希子、俺たちの子どもだぞ」


諒に返事もできなかった。









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