せめて、もう一度だけ
「美希子、俺たちの子どもだよな?」


私の顔をのぞきこむ諒は、不安げな表情で。


ぼんやりとした頭で考えたのは、遼くんのこと。


遼くんは、ケジメだからって避妊してくれてた。


諒は、夫で子どもを望んでいたんだから当たり前かもしれないけど、避妊してなかった。


遼くんとは数え切れないほど体を重ねたのに。


どうして、数少ない諒とのセックスで、子どもを授かったんだろう。



「諒、いま何時?」


「えっと、朝の9時になるとこ」


「土曜日の?」


「そう、あっ、パート先にはしばらく休むって連絡しといたから」


「えっ、なんで?」


「なんでって、そんな状態で仕事に行っても迷惑かけるだけだろ、一人の体じゃないんだから、大事にしろよ」


土日はシフトを入れていないから、平気だけど。


私がしばらく休むことを、遼くんには知られたくなかった。



「美希子、さっきの返事は?


俺との子どもだよな?


美希子が好きな男との子どもの可能性はないよな?」



諒との子どもじゃないって、嘘をつきたかった。


私が望んでいるのは、遼くんと一緒にいることだから。


でも、嘘をついても、遼くんに本当のことを言えずに苦しむだろうし、避妊していた遼くんは疑うだろう。


私は、遼くんの子どもを産みたかったのに。







< 65 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop