せめて、もう一度だけ
私の突然の言葉に、諒は驚いたのか、しばらく黙っていた。


「誰に会えばいいわけ?」


うすうす気づいてるんだろうけど、諒は知らないふりをしている。


「・・・私の、好きな人」


諒は、やっぱりな、という顔。


私は、この機会を逃さないように、必死でしゃべった。


「彼に話したの、赤ちゃんのこと。


赤ちゃんを一緒に育てたいって言ってくれた。


だから、離婚してください」



諒は、あきれたように深いため息をついて、まくしたてた。



「そいつ、本気で言ってんのか?


赤ちゃんは、俺と美希子の子どもなんだぞ。


赤の他人を育てられるわけないだろ。


俺は絶対に認めない」


「私が、これからの長い人生を一緒に過ごしたいのは、諒じゃなくて彼なの。


この子だけ残してくれれば、他には何もいらないから」


「美希子がそいつを好きなのはわかったよ。


でも、いつか子どもが原因でもめて、必ず後悔する」


「そんなことない。


彼とちゃんと話し合って、向き合ってほしいの」


「美希子、なんにも知らないんだな。


いま、俺たちがもめてる原因は、美希子の浮気だろ。


原因がある側から離婚を言い出しても、相手が認めなければ離婚は成立しない。


だから、俺が離婚に応じなければ、そいつと暮らすのは無理だ」




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