せめて、もう一度だけ
モヤモヤしたまま、引越に向けて荷造りを始めた。


諒と一緒に仙台へ行くにしても、遼くんを選ぶにしても、このマンションは出ないといけないから。


会社には、9月末で退社する旨を伝えた。


斉田事務長には、くれぐれも他言しないようにお願いした。


小宮さんには、


「田辺くんにも言わないつもり?」


って、しつこく聞かれたけど。


「絶対に言わないでください」


お願いするしかなかった。



だから、遼くんとは今までと少しも変わらず、休みが合えば会っていた。


「ダンナさん、やっぱり会ってくれないって?」


遼くんはたまに確認してくれたけど、


「うん、会いたくないって」


嘘ばかりついていた。


本当は、諒に何も話していなかったから。



遼くんは、私のおなかに優しくふれながら、


「男でも女でもいいから、元気に産まれてこいよ」


まるで父親のように語りかけたりしていた。


そんな遼くんの姿は、いとおしくてたまらなかったけど。


ある意味、つらかった。




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