せめて、もう一度だけ
まだ片づけ終わっていない荷物があって、日中ちょこちょこ段ボールを開いてはしまっていた。


すぐには使わない私の私物が入った段ボールを開いて、本やアルバムを引っ張り出した時。


本の間から、白い封筒がパサリと床に落ちた。


表を見ても、何も書いていない封筒には、封もされていなかった。


中身を出して、忘れていた感覚がよみがえった。


出てきたのは、離婚届だった。



遼くんが好きで、諒と離婚したくて、どうしようもなかった気持ち。


どうして、これを書いた時の気持ちを忘れてしまったんだろう。


遼くんと出会うきっかけになったパート先の求人チラシも、こんな風に新聞から落ちてきたんだっけ。


もしかしたら、今回もきっかけになるかもしれない。


時計を見たら、まだ朝の9時すぎ。


急げば、遼くんのところへ行っても、今日中に帰ってこれるかもしれない。


しかも、今日は月曜日。


遼くんが普段、休んでいる曜日。


私は、せきたてられるようにキャリーバッグへ荷物をつめて、普段よりも多目の現金と、普段は持ち歩かない貴重品をバッグに入れた。



これは、賭けだ。


遼くんはいないかもしれない。


もう、別の人がいるかもしれない。


せめて、もう一度だけ、遼くんに会いたい。


会って、黙って仙台へ行ってしまったことを、謝りたい。



仙台駅に着いたら、5分後に東京行の新幹線があった。


急いで切符を買い、新幹線に乗った。






< 90 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop