せめて、もう一度だけ
どれくらい時間がたったんだろう。


時計を見ていなかったからわからない。


「ミキ」


驚いて声の方角に顔を向けると、スーパーの袋を提げた遼くんが立っていた。


「遼くん、ごめんなさい」


「・・・とりあえず、入れば」


遼くんは、表情ひとつ変えずに言った。


当たり前だよね、怒ってるよね。


黙って、遼くんのあとから部屋に入った。



部屋は、私が遊びに来ていた頃と変わっていなかった。


遼くんは黙って、買ってきた物を冷蔵庫へしまっている。


遼くんが落ち着くのを待って、私は話し始めた。


「黙っていなくなって、ごめんなさい。


夫が仙台へ転勤になって、すごく悩んだけど、遼くんに全部背負わせることはできないって思った。


私と赤ちゃんだけでも大変なのに、夫や私の家族のことまで迷惑かけられないって。


すぐに離婚するのも難しそうだし。


だから、黙って仙台へ引っ越した。


でも、仙台へ行っても、遼くんのことを想わない日は1日もなかったよ。


やっぱり、遼くんが好きだから。


私のワガママだけど、黙っていなくなった理由を知ってほしかった。


聞いてくれてありがとう」


遼くんは黙って私の話を聞いていた。


私が話し終わっても、しばらく黙っていた。



遼くんが、重い口を開いてやっと出てきた言葉。



「今さら、なに?」



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