ビター・アンド・スイート
仕事が終わって、駅ビルの中の手芸店に寄った。
なぜかヤヨイも一緒に毛糸を選んでいる。
「ヤヨイも編むの?」と聞くと、
「誰に編もうかなあ。」と呑気な事を言っている。
薄いブルーとグレーとグリーンが混じった細い柔らかい毛糸を選んで、
編み針も用意した。
時間はかかるだろうけど、肌触りの良い、薄くて軽いものになるかな。
まあ、編み目は不揃いでも暖かいでしょう。と思いながら、会計をしていると、
ヤヨイもオフホワイトの太めの糸を選んでいるみたいだ。
誰かに贈るつもりかな?
私が意味ありげに見ると、
「自分用です。」とちょっとムキになって、頬を染めた。
ほお。
好きな人でもできたのかしら。
と私は微笑ましく、ヤヨイの横顔を見つめた。

帰りの遅いリョウを待つ間の暇つぶしが出来た。
私はリョウのいない昼下がりや、ベットに入る前にラジオをかけ、編み針を動かす。
リョウは少しずつ、長くなるマフラーにご満悦な様子で、
あまり私の邪魔をせず、コーヒーを淹れてくれたりする。
(まるで邪魔をしないって事ではないけど。)
こんなに喜んでもらえて良かったですよ。
まあ、バレンタインには間に合わないかもしれないけど、
嬉しそうに笑うリョウは子どもの顔をしている。
後は手作りチョコだ。
昔に作った事があるフォンダンショコラにしよう。
失敗せずにできるだろう。
前日に休みを取って作る事にして、
私はマフラーに集中する事にした。
< 113 / 131 >

この作品をシェア

pagetop