ビター・アンド・スイート
昼過ぎに家に戻ると、
リョウが家に戻っていた。
いや、大袈裟でしょ。
少し体調が悪いので、夕飯の支度が出来ない。
病院に行ってくるねって。ラインしておいただけなのに。

リョウは私の顔を見てホッとしたようで、
「なんで、スマホ電源切ってるんだよ。」と文句を言って私を強く抱きしめた。
「病院で電源切って、そのままだった。少し横になる。」
とちょっと言い返す元気が出ずに静かに言うと、慌てて、
「大丈夫なのか?病院で薬もらってきたのか?」
と私のバッグを持って、肩を抱いてソファーに座らせ、
パジャマを持って来てくれた。

私は大人しく着替えながら、
「…あのね、リョウ、チョコレート作れないかも。」とボンヤリ言うと、
「治ったら、作ってくれればいいよ。暖かいの飲む?」とキッチンでお湯を沸かしている。
「うーん。いつ作れるかわからないかなあ。」と洗面所で手を洗ってうがいをする。
「何飲む?緑茶?コーヒーはダメか?」と声がする。
「白湯。」と言うと、
「白湯?腹でも壊してるのか?」と心配そうな声をだして、近づいて来た。
「いや、お腹は壊してない。バッグどこ?」と探そうとすると
「大人しくソファーに座れ。」と手を掴まれ、ソファーに座らされた。
リョウはバッグを私に手渡し、キッチンで白湯を淹れて持って来てくれる。
やれやれ。と私の隣に座って、
「で、風邪?」と私の顔を覗くので、
「えっと、これ。」と白黒のエコー検査の紙を渡すと、
「なんだこれ?」とリョウは目を細めて紙を見る。
「ここの部分がリョウの子ども。」とちょっと笑って指を指すと、
えっ!と驚いた顔をした後、
何度も私の顔と、紙を食い入るように見つめ、
「…もう、1回言って。」と真剣な顔で私を見つめた。
「妊娠しました。2カ月です。」と私は笑って、言いながら、涙が頬を伝う。
言葉にしたら、やっと私も実感できたみたいだ。
「俺って、父親になったの?」と私の顔を見て、涙を拭う。
私が頷くと、
「ハヅキ、俺、すごく嬉しい。」と顔をくしゃくしゃにして、笑顔を見せた後、
そおっとと私を抱きしめ、深くくちびるを重ねた。


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