ビター・アンド・スイート
10月の初め私は陣痛が始まって、
半日かかって出産した。
リョウはオロオロと歩き回って、私の手を握ったり、背中をさすってくれたりしたけど、
あんまり役には立たなかったかな。
子どもが無事に産声を上げた時、私の手を握って
「ありがとう」と涙を浮かべて何度も繰り返し、
おっかなびっくり、大きな手で自分の息子を抱っこした。

私たちの息子は、私の父に『勇太(ゆうた)』 と名付けられ、
もう少し大きくなったら、
私がgâteau kazamaを手伝っている時は三吉屋で預かってもらう事になっている。
いま、おっぱいを飲み終わって
ベビーベットで眠っているけど、かけられているベビー用の掛物は
リョウのマフラーとお揃いの毛糸を使って、私が編んだものだ。
リョウは嬉しそうにマフラーを自慢しているらしい。


私たちの子供は
これから、たくさんの家族のいろいろな愛情を受けて育っていくだろう。
どんな風に育っていくか、わからないけれど、
十分に愛されたと言う記憶はきっと、生きていく自信になるだろう。
たくさん泣いたり、笑ったりして
大きくなって欲しい。


私とリョウはベビーベットのそばに座って、
勇太の顔を見ながら微笑み合い
「愛してる」と言って
そっとくちづけを交わす。

私達が出会えた小さな偶然と
愛し合って、勇太が生まれて来てくれた事に感謝して、
リョウの腕の中で目を閉じ、深く唇を重ねた。


〜fin〜

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