ビター・アンド・スイート
駅の近くの小綺麗な居酒屋にはいる。
まあ、イシバシならこんな程度か。
と注文したグレープフルーツサワーに口をつけながら
周りを珍しげに眺めると、
「ヤヨイちゃんもお嬢さんだったね。
もっと、上品なところが良かった?」と聞くので、
「和菓子屋の娘はお嬢さんじゃありません。
1個数百円の商品を扱っているんですから。
老舗でも、お金があるっていうわけじゃありません。
いつもはチェーンの居酒屋です。」と言うと、
ちょっと安心した顔をして、イシバシはビールをごくごくっと飲んで
「案外、ヤヨイちゃんが庶民的で良かったよ。
ハヅキさんって隙がなくて、いつも緊張してたけど、
案外そうでもなかったのかな」と私に柔らかく笑いかける。
でも、またハヅキちゃんの話?と思うと、ため息が出る。
「悩みごとでもあるの?」とイシバシは心配そうな顔をする。
悪いヤツではないんだけど、鈍いオトコだ。とまたため息をついて、
「ここの支店の人はみんなハヅキちゃんが好きね。」とポツンというと、
「ヤヨイちゃんの事も好きだと思うけど。」と私の顔をみる。
「お世辞はいいよ。ハヅキちゃんはよくデキのオンナだし。」と頬杖をつくと、
「よくデキってことじゃなくて、
出来るように頑張ってるって思ってたけど。」と言うので、
「そーいう、ハヅキちゃんが好きなんだ。」とイシバシの顔を覗くと、
驚いた顔をして、
「いや、そんな風に思ったこともないって言うか、高嶺の花っていうか、
一緒にいるとすごく緊張して、気が抜けないっていうか…
ヤヨイちゃんが来てくれてホッとしてるっていうのが本当のところ。」
と笑って、ビール頼み、何を飲む?と私にも聞く。私はもういっぱいサワーを頼み、
「へえ。」と顔を見ると、
「ハヅキさんには内緒ね。俺が勝手に緊張してるって事。
ヤヨイちゃんはいつもニコニコしてくれて、頼ってくれるから安心するんだ。」
と少し酔った顔で笑った。
きっと、私がハヅキちゃんと自分ををいつも比べているってわかって、
慰めてくれたのかもしれないけど。
「リョーカイです。」と顔を覗くと、ちょっと顔を背けて、
「あんまり、見つめられると困る。」と赤くなるので、
あれ?
イシバシってあたしのことが気になってるのかな?
ってやっと気付く。
この人はハヅキちゃんのファンだって思ってたから、
ノーマークだったんですけど。
と人の良さそうな笑顔を少し上目遣いで見上げてやると、
わかりやすく、さらに顔を赤くした。
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