ビター・アンド・スイート
BARを出て、帰り道を手を繋いで歩く。
建物の陰でイシバシは私をぎゅっと抱きしめた。
大人しく抱きしめられ、キスを待っていると、
そっと身体を離して手を繋いで歩こうとするので、
「イシバシさん、名前はなんて言うの?」と足を止めさせる。
「蓮(レン)だよ。ヤヨイちゃん。」と私を見る。
「レン、キスして。」と見つめると、
迷った顔をして、
「…キスだけじゃすまないくらい俺は君が好きなんだけど。」と、見つめるので、
「キスして。」と目をつぶると、溜息をついた後、
「BARを出るとき、今日は家に帰そうって思ったのに。
もう、止められないよ。」と深く深く唇を奪う。
うん。
キスが上手い。
イシバシはやっぱり大人の男だな。
と息を継ぎながら、キスを重ねる。
私の心臓がバクバクと音を立てる。
毎日私を見ている優しい瞳を
どうやら、いつの間にか好きになってたみたいだ。

「ホテル戻るよ。本当は部屋も取ってあったんだ。」
とイシバシは耳にくちづけしながら囁いた。
ほお。
さっきのBARでの純情っぷりは演技?
と思って、瞳を見上げて、
「イシバシさんって隠れオオカミ?」と聞くと、
「ヤヨイちゃんが好きなだけだよ。
オトコは好きな女の子を抱きたいって思うんだよ。
もしも、上手くいったらって思って、フライングでもホテルの部屋をとった。
用意周到ってオトコは嫌い?」
と私の肩を抱いてホテルに戻りながら、瞳を覗くので、
「嫌いじゃない。」と笑って、イシバシの肩に頭を付けると、
「好きだよ。ヤヨイ。」と道路の真ん中で立ち止まって、短いキスをした。


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