ビター・アンド・スイート
「最近、この店は売上がいいね。」
とデパ地下担当のフロアマネージャーの工藤さんが開店まえに通りかかって、
石橋さんに声をかける。
40歳。バツイチ。ガタイが良くて、顔が濃く、いつもゴルフ焼けをしているこの男は
結構、人気があるらしく、女子達が見つめているのがわかる。
「ありがとうございます。」と揃って、頭を下げると、私の顔を見て、
「君は新しく入ったヒト?」と聞くので、
「三吉 葉月です。」と言うと、
「ああ、三吉屋さんのお嬢さんか。」と笑いかける。
「まだ、この仕事を始めたばかりの新人です。」と俯くと、
「僕は三吉屋さんのお菓子が好きでね。期待してますよ、…ハヅキさん。」
と私の顔を覗き込んだ。
「はい。」と顔を上げると、日に焼けた濃い顔でにっこり微笑んだ。

「ハヅキさん、いっぺんで名前を覚えられてましたよ。」
と木下さんが私の顔を見て、興奮している。
「フロアマネージャーって、ヒトの名前を覚えるのも仕事でしょう。」
と笑って答えて、前を見ると、
店にいたシロタさんが、腕組みしてコッチを睨んでいた。
…なんだアイツ。今日はさらに機嫌が悪いぞ。




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