ビター・アンド・スイート
三吉屋に着く。
「立派だねえ。」と風間さんが立ち止まる。
「いざ、突撃。」とシロタさんが私の手を掴む。
手をつないで家に入るわけにも行かない。
「離して。」というけど、聞こえないふりだ。
裏の勝手口に入る。
母が手を握られている私の顔を見る。
「離して。」と落ち着いた声で言うと、やっと、私の手を離し、
「初めまして。洋菓子店『gâteau kazama』から参りました。
マネージャーの城田と申します。」と母に名刺を差し出し、
「本日は、6代目にお力添えをお願いにまいりました。」と頭を下げた。
「えーと、ハヅキのお知り合い?」と母が聞くので、
「お付き合いをさせていただきたいと、お願いにも参りました。」と涼しい顔でニコリとする。

「それとこれとは…」と私が慌てて言うけど、母は驚いて、
「おとうさーん。」と父を呼びに行ってしまう。
やれやれ、
「どうするの?」と呆れて言うと、
「大切な娘の交際相手の言うことを、まるで無視する親はいないでしょ。
どんな男か知りたいはずだし。掴みはオッケイ。」と私に笑いかける。

そういう、やり方ですか。
私は可笑しくなって
クスクス笑った。


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