ビター・アンド・スイート
「俺の親に挨拶?」
更に数日後、リョウがうちにやって来た日に言ってみた。
「挨拶をすませたら、リョウの部屋に住んでいいらしい。」と顔をみると、
「やった!そっちを先に言えよ。俺、結構緊張してここにきてるんだからさあ。」
と笑って私をぎゅうぎゅう抱きしめた。
勝手口の前ではみんな見てるって。と顔が赤くなる。
「支店に出るのは2、3日に1度でいいらしいから、
リョウの部屋から通えるかな。」と言うと、
「え?支店が困るんじゃない?ハヅキ、結構役に立ってるだろ。」と言う。
ヤヨイが
「大丈夫。」とリョウが手に持ったgâteau kazamaの箱を受け取りながら、
「私がハヅキちゃんの代わりに着物を着て支店に立つの。
けっこう、男の人に声をかけられるかもぉ?」とヤヨイがニコニコする。
「ヤヨイは先にここで仕事を覚えるんでしょ。」と言うと、
「大丈夫。すぐに覚えるって。」と笑って、リョウが持ってきた焼き菓子を選んでいる。

「ヤヨイちゃん、本気なの?」とリョウが私の顔を覗く。
「今はね。」と言うと、クスクス笑った。
「バイトの人をひとり増やして、私は出られるときに出ればいいって言われちゃった。
リョウはうちの家族に気に入られてるのね。
一緒に暮らして、リョウの助けになればいいって思ってるみたいです。」と言うと、
「すごーく嬉しいけど、今から箱入り娘を連れて出ちゃっていいのかなあ?」と言うので
「出戻りですけどね。」と言うと、
「出戻ってくれてよかったよ。俺はハヅキに会えたから」と私の手を握った。
「イチャイチャしてるー。」とヤヨイが家族に聞こえるように言う。
「イチャイチャなんてしてません!」と怒ったけど、
「リクエストにお答えして。」とリョウが笑って、私の頬に唇を付ける。
こら、親に見られるって!
「ラブラブぅ。」とヤヨイが言って、リョウがにっこり微笑んだ。
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