ビター・アンド・スイート
今日は颯太さんと美咲さんの行きつけのBARに行くみたいだ。
江ノ電に乗って、七里ヶ浜の駅に降りる。
(颯太さん達のお家はこの駅の丘の上の高級住宅街にある。
リョウに言わせれば、「俺よりボン(お金持ちのお坊ちゃん)だ。」って事らしい。)
駅から、5分ほど山側に歩くと、黒くて真四角な
「BAR 山猫」があった。
ワインレッドのネオンの看板。窓のない建物。
怪しすぎる。きっと、私1人では入れない雰囲気。
リョウは慣れた様子でドアに手をかけ、私を店の中に入れる。
カランカランと昔懐かしいベルが鳴る。
「いらっしゃーい。」と声にハートがついたソプラノの声がして、
ショッキングピンクのスパンコールの身体にピタリとしたマーメイドドレスを身に付けた、
金髪で金色の瞳、真っ赤なツヤツヤの唇をした、女性がやって来た。
「リョウくん、あいかわらず、い・い・お・と・こ・ねえ。」と
私を通り過ぎて、リョウに抱きついている。私が呆気に取られて、固まっていると、
「徹(トオル)、俺に近寄るな。」
としかめ面で、押し返しているリョウが目に入る。
「このオンナはリョウくんのなに?」
と金色に瞳が私をジロジロみる。
「ヤメろ、トオル。ハヅキちゃんが怯える。」
と颯太さんの笑った声が店の中からする。
「俺の婚約者。」
とリョウは私の手を掴んで颯太さんと美咲さんの座っている奥のソファー席に歩く。
「なんですってえ、
もう、好みの男が次々結婚するってどういうことよ!」
と怒った声を出してついてくる、トオルと呼ばれたヒトが大袈裟に顔を覆う。


「初めまして、トオルさん。三吉 葉月です。」と振り向いて、私が小さな声で言うと、
「初めまして。颯太と美咲の高校の同級生。
今ではオンナのシルビアでーす。」
とにっこり綺麗な笑顔を見せて、カウンターの中にいる男性に目配せする。
今ではオンナはって事は、昔は違うってことかな。と思っていると、
「昔は男友達だったけど、
今では女同士のお付き合いをしているの。」と美咲さんが笑う。
「ミサキチ(美咲さんの高校時代のニックネームだったらしい。)
の女子力が最近、上がってきたのはアタシのお・か・げ・でしょうね。」
と艶やかに微笑む。
綺麗なヒトだ。スタイルも抜群だし。
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