ビター・アンド・スイート
駅前のスパについて、はしゃいで浴衣を選んで借りる。
天気が良いので、露天風呂に入りに行く。
打たせ湯、寝湯、ジャグジーなど、順番に入って、たわいのない話をしながら伸びをする。
土曜日だけど朝早いので、けっこう空いていて、のんびりできる。
「サウナ行ってくるー。」とヤヨイが言って、ジャグジーを出て行く。
サウナが苦手な私とスズカさんは留守番だ。
私とスズカさんはのぼせないように上半身をお湯から出して座ってヤヨイを待つ事にした。
「ハヅキちゃん、シロタさんと、上手くいっているみたいね。
シロタさん、すごく優しいし。」とスズカさんが、私の顔をみる。
「まあまあです。けっこう、口喧嘩もします。」と笑うと、
「私も睦月君と喧嘩しますよ。言いたい事は言わないと、ストレスになるし。
睦月君は喧嘩しているのを直ぐに忘れて、
普通に話しかけてくるので、長い喧嘩にならないけど。」とスズカさんは笑う。
まあ、兄はこだわりの少ないおおらかな男だ。(大雑把ともいうかな。)
私もクスクス笑う。
スズカさんは少し改まった声で
「ハヅキちゃんが結婚してから私がお嫁に来たので、話した事はなかったけど、
私は昔、許嫁がいたの。ずっとその人と結婚するように言われていたから、
その人も私も、そうするものだって思っていたの。
でもね、結婚する前の婦人科の検査で
私が妊娠しにくい体質だってわかって、結婚はなくなったの。
その人の家はお茶の家元のお家だった。
だからね、後継が必要だからって言われて、私は結婚できなくなった。
悲しかったわ。
他の人とお付き合いする事なんて、考えた事もなかったし、
もう、私は結婚する事もないんだろうって思った。
でも、私の身体の事は公にはならなかったから、
結婚話がなくなった私に、お見合いの話が来た。
それが睦月君。

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