ビター・アンド・スイート
「きゃー。プロポーズ!」とヤヨイが笑う。
「…ムードにかける。」私が顔を背けると、
「えー?ここじゃダメだった?
でも、ハヅキ、俺と結婚して。」と私の肩を掴んで、顔を覗き込んでくる。

家族が静かに私の返事を待っているのがわかる。
テーブルに上でお鍋がグツグツといっている音だけが聞こえてくる。
「…今言わないとダメ?」と私は呟いて、視線が泳いでしまう。
リョウはまだ私の顔を真剣に見ている。
私は周りを見回す。ヤヨイも、スズカさんも頷いている。
私は大きくため息をついて、
「…リョウと結婚します。」とちょっと俯いて言うと、
「ヨシ!」とリョウは私をぎゅーっと抱きしめ、
置いた上着のポケットから小さな箱を取り出した。
「つけてください。」と箱を開けて、指輪をみせる。
準備がいい。
私はポカンとしてしまう。
リョウに
「返事は?」と催促され、
「はい。」と慌てて言うと、リョウはにっこりして、
右手の薬指に長方形にカットされた結構大きなダイヤの指輪をそうっとはめてくれた。
「これで、俺の奥さん決定。」と指輪を付けた手をみんなに見せる。

「これって大きいー。」とヤヨイが私の手を掴む。
「ブランドモノですね。着物にも似合いそう。」とスズカさんも私に笑いかける。
「ハイ、乾杯の準備ー。」と兄も笑った声を出す。
うわー。
恥ずかしい。
私は慌てて立ち上がり、キッチンにビールを取りに行った。
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