巫部凛のパラドックス(旧作)
「……」
 ゆきねもそのまま押し黙ってしまい。何かを考えているようだったが、しばらくすると無言のまま何の感情も見いだせないような冷たい表情でゆきねは踵を返した。
 俺はその場に立ちつくし、しばらく動けないでいた。ひょんな事からニームを探す事になっちまったが、まさか、俺たちが探し求めていたものが、こんな身近にいたとは。だが、ゆきねの言葉では、巫部を処理するという。そうしないと闇の世界が増殖して、この世界を覆い尽くしてしまうからだ、しかし、よく考えろ、巫部を処理ってことは殺すってことで、そんな物騒なことがあってもいいのいか。だが、しかし……。
 俺の思考はまとまらない、矛盾した命題を延々と否定しているかのようで、いくら考えても堂々巡り水掛け論になってしまう。
「くそっ、どうすりゃいいんだ?」
 俺は空を見上げた。そこには相も変わらず太陽が燦々と輝いていた。この世界が闇で覆われてしまうなんて、どうかしてる。だが、それを救うには、巫部を殺す必要があるという。いきなりとんでもない世界へ放り込まれて、一体俺の周りで何が起こっていると言うのだ。どんなに考えてもいい回答なんて浮かびそうにない。そして、更に今の俺にできることはない。強制的に自我を納得させて、とりあえず授業に出ようと、一限目が始まり誰もいない廊下を教室に向かい足を踏み出した。

 それからしばらく学校にゆきねの姿はなかった。巫部について調べているらしいのだが、家に帰っても口を聞いてくれない。何か俺は怒らせたような事をしたのだろうか。謎は深まるばかりだ。だが、ゆきねの行動なんかを見ているに、直ぐに巫部を殺すってことはなさそうな雰囲気が漂っているのも事実だった。
< 26 / 67 >

この作品をシェア

pagetop