巫部凛のパラドックス(旧作)
「……」
俺はあっけにとられ、気づいた時には巫部の姿は教室にはなく反論する機会を失ったことに気づいた。
「あっ、あれって何だったんだ?」
「さあ? なんだろうね」
「あれって、俺たちが生徒会をやるって流れになっちまったようだが」
「そうだね」
「今すぐ追いかけて取り消そうぜ、でないと本当に立候補させられちまうぞ」
「うーん。そう簡単にいくかな? 巫部さんは一回言い出したらてこでも言う事聞いてくれないんだよ。ちょっと無理かも」
何故だか笑顔を返す麻衣だが、そうなのか?
「うん、話をしていてわかったんだけど、とっても頑固で行動が早い人なんだよ」
相変わらず笑顔でさらりと言うが、この状況を分かっているのか? 俺に生徒会長が務まるわけがない。というか、そんな面倒ごとに巻き込まれたくないぜ。……ん? ちょっと待て、巫部は何て言った? 「麻衣も立候補するから……」って、こいつもやるのか?
「おいおい、麻衣も巻き込まれちまってるぞ、たしかあいつは麻衣も立候補するって言ってたよな?」
「あれ? そうだった?」
麻衣は人差し指を口の前に添え一瞬考え込むように首を傾げたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「でも、生徒会も楽しそうだね。頑張りましょう、会長」
おいおい、少しは嫌がってくれよ。って、既に俺が生徒会長なのは決定ですか? 麻衣の賛成アンド推薦により完全にヤバイ流れになっちまってるぜ。
こんな感じで誰かさんのとんでもない策略によりまんまと俺は生徒会長という職に遺憾ながら就くことになっちまった。しかも当の巫部はと言うと、俺たちを生徒会なんぞに推薦しておきながら、「私は司令塔なの、司令塔はフリーに動き回るのが筋じゃない?」という一言で自分は立候補しないなんてとんでもない理不尽さを全力で発揮し、結局巻き込まれたのは俺と麻衣だけであった。
その後はあっさりと生徒会選挙なんて形だけの儀式がつつがなく終了してしまった。結局のところ、他の生徒は、「自分じゃなければ誰でもいい」状態で、俺一人が反対したまま圧倒的多数の民主主義を見せ付けられちまった。ちきしょう。何で俺なんだよ。
忌まわしい選挙から数日後、早速生徒会に召集命令が下された。全力で拒否してしまいたいが、数の暴力に負け、しかたなく就任しちまったので逃れられそうにないな。半ば諦めの気分で一人生徒会室のドアを開けると、そこには、ある女子生徒が大人しく座っていた。
「あっ……」
笑顔を見せた女子生徒は俺の元まで駆け寄り、
「会長、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるが、俺はその女子生徒から目が離せず、額と背中に冷や汗をかいていた。なぜならば、そう、天笠美羽がそこにいたからだ。
どうする。以前殺されかけた相手がそこにいるのだ。ここからなら逃げられるか? ドアとの距離を測るも到底一、二歩じゃ脱出できない。後を向いた瞬間に撃ち殺されそうだ。
「あら、その様子じゃ私の事覚えてた?」
さっきまでの満面の笑みから一瞬で冷めた表情になった天笠。
「あっ、当たり前だろ。俺はお前に殺されそうになったんだぞ」
「結構記憶力いいのね。あまりのバカ面だからてっきり忘れていると思ったのに。まあ、覚えているなら話が早いわ。私も生徒会の一員なの。よろしくね」
そう言って右手を差し出してきた。
「……」
この右手をとっていいものか。まさか罠か? 手を握った瞬間にナイフで一突きとか……てなことを逡巡してみるが、どれも最後は死に直結してるんですけど。だが、次に天笠が発した言葉は以外なものだった。
「そう警戒しなくてもいいわよ。もうあんたを殺そうとしないから」
「ほっ、本当か?」
「本当よ、信じなさい。私はあの狩人に負けたわ。まあ、狩人というより狩人達って感じね。また戦っても勝てそうな気がしないわ。なら、答えは簡単。おとなしく学校生活を送るしかないじゃない? それで、暇になっちゃったから生徒会に立候補したってわけ」
「俺たちを殺そうとしていた奴の言葉なんか信じられないな。罠でもしかけられたらたまらんからな」
依然として、出口を背にいつでも廊下に飛び出せるよう、体制を整えておかなくちゃな。
「まあ、信じる信じないはあんたの勝手だけどね。でもいい? 私にもプライドがあるの。一度負けた相手に卑怯な手を使うつもりもないわ。それにね。何度戦っても彼女には勝てないわよ」
「えっ?」
「戦闘上級者は冷静に相手の力量を見極めなくちゃならないの。そうしないと命がいくつあってもたりないからね。で、私が出した結論は、彼女には敵いっこないってこと。だから、もう彼女と戦うつもりはないわ」
「そっ、そんなもんなのか?」
「そうよ。だから、あんたも安心していいわよ。会長なんだからもう少ししっかりしなさい!」
ビシッという擬音が聞こえそうなくらい、人差し指を突きつける天笠だが、こいつの言葉を信用してもいいのだろうか。だが、ここで考えてみよう。こいつが俺を殺すつもりなら、今会話をしている間にも実行できたんじゃないだろうか。以前は一瞬の内に銃を取り出し撃ちやたっがからな。では、信じるに値すると……。
「……」
「何ボケーっとアホ面晒してんのよ。さっ、話はここまでよ。他のメンバーきちゃうじゃない」
そう言って天笠は席に着く。
「ほっ、本当に襲ってこないんだな。後を向いた瞬間に背後からなんてやめてくれよ」
「もう、私が言ってんのよ。少しは信じたらどう?」
俺はあっけにとられ、気づいた時には巫部の姿は教室にはなく反論する機会を失ったことに気づいた。
「あっ、あれって何だったんだ?」
「さあ? なんだろうね」
「あれって、俺たちが生徒会をやるって流れになっちまったようだが」
「そうだね」
「今すぐ追いかけて取り消そうぜ、でないと本当に立候補させられちまうぞ」
「うーん。そう簡単にいくかな? 巫部さんは一回言い出したらてこでも言う事聞いてくれないんだよ。ちょっと無理かも」
何故だか笑顔を返す麻衣だが、そうなのか?
「うん、話をしていてわかったんだけど、とっても頑固で行動が早い人なんだよ」
相変わらず笑顔でさらりと言うが、この状況を分かっているのか? 俺に生徒会長が務まるわけがない。というか、そんな面倒ごとに巻き込まれたくないぜ。……ん? ちょっと待て、巫部は何て言った? 「麻衣も立候補するから……」って、こいつもやるのか?
「おいおい、麻衣も巻き込まれちまってるぞ、たしかあいつは麻衣も立候補するって言ってたよな?」
「あれ? そうだった?」
麻衣は人差し指を口の前に添え一瞬考え込むように首を傾げたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「でも、生徒会も楽しそうだね。頑張りましょう、会長」
おいおい、少しは嫌がってくれよ。って、既に俺が生徒会長なのは決定ですか? 麻衣の賛成アンド推薦により完全にヤバイ流れになっちまってるぜ。
こんな感じで誰かさんのとんでもない策略によりまんまと俺は生徒会長という職に遺憾ながら就くことになっちまった。しかも当の巫部はと言うと、俺たちを生徒会なんぞに推薦しておきながら、「私は司令塔なの、司令塔はフリーに動き回るのが筋じゃない?」という一言で自分は立候補しないなんてとんでもない理不尽さを全力で発揮し、結局巻き込まれたのは俺と麻衣だけであった。
その後はあっさりと生徒会選挙なんて形だけの儀式がつつがなく終了してしまった。結局のところ、他の生徒は、「自分じゃなければ誰でもいい」状態で、俺一人が反対したまま圧倒的多数の民主主義を見せ付けられちまった。ちきしょう。何で俺なんだよ。
忌まわしい選挙から数日後、早速生徒会に召集命令が下された。全力で拒否してしまいたいが、数の暴力に負け、しかたなく就任しちまったので逃れられそうにないな。半ば諦めの気分で一人生徒会室のドアを開けると、そこには、ある女子生徒が大人しく座っていた。
「あっ……」
笑顔を見せた女子生徒は俺の元まで駆け寄り、
「会長、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げるが、俺はその女子生徒から目が離せず、額と背中に冷や汗をかいていた。なぜならば、そう、天笠美羽がそこにいたからだ。
どうする。以前殺されかけた相手がそこにいるのだ。ここからなら逃げられるか? ドアとの距離を測るも到底一、二歩じゃ脱出できない。後を向いた瞬間に撃ち殺されそうだ。
「あら、その様子じゃ私の事覚えてた?」
さっきまでの満面の笑みから一瞬で冷めた表情になった天笠。
「あっ、当たり前だろ。俺はお前に殺されそうになったんだぞ」
「結構記憶力いいのね。あまりのバカ面だからてっきり忘れていると思ったのに。まあ、覚えているなら話が早いわ。私も生徒会の一員なの。よろしくね」
そう言って右手を差し出してきた。
「……」
この右手をとっていいものか。まさか罠か? 手を握った瞬間にナイフで一突きとか……てなことを逡巡してみるが、どれも最後は死に直結してるんですけど。だが、次に天笠が発した言葉は以外なものだった。
「そう警戒しなくてもいいわよ。もうあんたを殺そうとしないから」
「ほっ、本当か?」
「本当よ、信じなさい。私はあの狩人に負けたわ。まあ、狩人というより狩人達って感じね。また戦っても勝てそうな気がしないわ。なら、答えは簡単。おとなしく学校生活を送るしかないじゃない? それで、暇になっちゃったから生徒会に立候補したってわけ」
「俺たちを殺そうとしていた奴の言葉なんか信じられないな。罠でもしかけられたらたまらんからな」
依然として、出口を背にいつでも廊下に飛び出せるよう、体制を整えておかなくちゃな。
「まあ、信じる信じないはあんたの勝手だけどね。でもいい? 私にもプライドがあるの。一度負けた相手に卑怯な手を使うつもりもないわ。それにね。何度戦っても彼女には勝てないわよ」
「えっ?」
「戦闘上級者は冷静に相手の力量を見極めなくちゃならないの。そうしないと命がいくつあってもたりないからね。で、私が出した結論は、彼女には敵いっこないってこと。だから、もう彼女と戦うつもりはないわ」
「そっ、そんなもんなのか?」
「そうよ。だから、あんたも安心していいわよ。会長なんだからもう少ししっかりしなさい!」
ビシッという擬音が聞こえそうなくらい、人差し指を突きつける天笠だが、こいつの言葉を信用してもいいのだろうか。だが、ここで考えてみよう。こいつが俺を殺すつもりなら、今会話をしている間にも実行できたんじゃないだろうか。以前は一瞬の内に銃を取り出し撃ちやたっがからな。では、信じるに値すると……。
「……」
「何ボケーっとアホ面晒してんのよ。さっ、話はここまでよ。他のメンバーきちゃうじゃない」
そう言って天笠は席に着く。
「ほっ、本当に襲ってこないんだな。後を向いた瞬間に背後からなんてやめてくれよ」
「もう、私が言ってんのよ。少しは信じたらどう?」