巫部凛のパラドックス(旧作)
「最後に一つ教えてくれ」
「何?」
天笠はテーブルに置いてあったコーヒーを一口啜る。
「諦めたってことは、この前言っていた人類をリセットさせるってことも諦めたととっていいんだな」
「……」
天笠は視線を少し落とした後、
「いいえ、この閉塞された世界を解決するには人類をリセットするしかないと思う。でも……」
「でも?」
「でも、よくよく考えてみると、それしか解決できないってのが納得がいかないのかもしれないの。確かに私達の研究所は世界一の研究機関でそれなりの成果もあげてきた。この世のどんな研究者達も達することのできない高度な研究を行っている唯一無二の研究機関だと自負しているわ。だからこそ、他の道を探して欲しいとも思ってるの。私達にはできると思うから。でも、上層部はそれをしようとしない。なーんか、結論ありきな所があるのよね。だから、正直なところ若干の不信もあるっていうのが本音ね」
「つまり、研究結果に納得できないと」
「理解はしているわ。でも、納得はしていない。リセットの他にも道があるんじゃないかって。だから、私は少し一線を退くことにしたのよ」
「そうか……」
天笠研究所に所属していながら、その結論に納得できない天笠。確かに人類をリセットし、新たな人類に地球を託そうなんて、荒唐無稽過ぎるし、こんな話に疑問をもつの頷ける。
「てな訳で私は今絶賛無職状態よ。だから、あんた達の邪魔はしないわ」
「わかった信じるよ。それじゃあ」
俺は天笠の差し出した右手をとった。
「わわわ。遅れちゃいましたー」
いきなり生徒会室のドアが開くと麻衣が駆け込んできた。
「おいおい、もう少し穏やかにはいれないのかよ」
「だってー、遅刻しちゃいそうだったんだもん」
「だとしても、ノックくらいするのが常識ってもんだろ」
「むう、蘭のくせに。いいもん。今夜はご飯抜きだからね」
「おいおい、それとこれとは話が違うだろ」
「同じだもーんだ」
「クスクス。お二人は仲がいいんですね」
天笠はさっきまでと人が変わったよに、おしとやかキャラになってやがる。
「あっ、申し遅れました。私、天笠美羽と申します」
丁寧に頭を下げる天笠だが、さっきまでとキャラが違いすぎる。
「私は、夕凪麻衣です。よろしくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる麻衣。
「おい、麻衣。この天笠だが、騙さない方がいいぞ……」
ここまで言った瞬間。鋭いボディーが炸裂した。
「ぐほぉ!」
「……? 蘭、どうかしたの?」
しかも麻衣の死角になる位置でってのがタチが悪い。
「会長、何か言いましたか?」
スマイル全開の天笠だが、その笑顔が怖いってーの。
こうして、俺たち生徒会は発足してしまった訳なのだが、我が南校生徒会は俺と書記の麻衣、そして会計の天笠という三人だけだ。学校側としてはこんな少人数の生徒会でいいのか? 甚だ疑問であるが、仰せつかってしまった以上、面倒以外の何者でもない生徒会とやらの業務をまっとうにこなさなくてはならないのである。まったくもってやれやれだ。
それからと言うもの、すっかり習慣付けられたように放課後生徒会室へ直行し席に着くと、
「会長、コーヒーです」
天笠はからくり人形のようにちょこちょことした足取りで、俺の前にやわらかい湯気が立ち上るコーヒーが置かれた。
「サンキュー」
とりあえず一口啜ると俺は会議資料に目を通し始めた。静まり返る生徒会室。学校の喧騒に中で唯一と言っていいほど静寂が支配した世界だ。なるほど、慣れてしまえば、これはこれでアリかもしれないな。
そんな生徒会室の中で聞こえてくる音といったら、俺が書類を捲る音と天笠がコーヒーを啜る音……のはずなのだが、なぜか今日に限ってはやたらと生徒会室が騒がしい。
「あっ、美羽、コーヒーお代わりね。ちょっと濃いめでお願い」
若干上から目線で追加コーヒーをせがむ声が聞こえる。だがまあ大した問題ではないさと頭を上げずに書類を確認しているが、はて、さっきの声の主は一体誰だ? 麻衣か? いやいや麻衣は天笠を呼び捨てになんかしないはずだ。俺の聞き間違いなのか?
「何?」
天笠はテーブルに置いてあったコーヒーを一口啜る。
「諦めたってことは、この前言っていた人類をリセットさせるってことも諦めたととっていいんだな」
「……」
天笠は視線を少し落とした後、
「いいえ、この閉塞された世界を解決するには人類をリセットするしかないと思う。でも……」
「でも?」
「でも、よくよく考えてみると、それしか解決できないってのが納得がいかないのかもしれないの。確かに私達の研究所は世界一の研究機関でそれなりの成果もあげてきた。この世のどんな研究者達も達することのできない高度な研究を行っている唯一無二の研究機関だと自負しているわ。だからこそ、他の道を探して欲しいとも思ってるの。私達にはできると思うから。でも、上層部はそれをしようとしない。なーんか、結論ありきな所があるのよね。だから、正直なところ若干の不信もあるっていうのが本音ね」
「つまり、研究結果に納得できないと」
「理解はしているわ。でも、納得はしていない。リセットの他にも道があるんじゃないかって。だから、私は少し一線を退くことにしたのよ」
「そうか……」
天笠研究所に所属していながら、その結論に納得できない天笠。確かに人類をリセットし、新たな人類に地球を託そうなんて、荒唐無稽過ぎるし、こんな話に疑問をもつの頷ける。
「てな訳で私は今絶賛無職状態よ。だから、あんた達の邪魔はしないわ」
「わかった信じるよ。それじゃあ」
俺は天笠の差し出した右手をとった。
「わわわ。遅れちゃいましたー」
いきなり生徒会室のドアが開くと麻衣が駆け込んできた。
「おいおい、もう少し穏やかにはいれないのかよ」
「だってー、遅刻しちゃいそうだったんだもん」
「だとしても、ノックくらいするのが常識ってもんだろ」
「むう、蘭のくせに。いいもん。今夜はご飯抜きだからね」
「おいおい、それとこれとは話が違うだろ」
「同じだもーんだ」
「クスクス。お二人は仲がいいんですね」
天笠はさっきまでと人が変わったよに、おしとやかキャラになってやがる。
「あっ、申し遅れました。私、天笠美羽と申します」
丁寧に頭を下げる天笠だが、さっきまでとキャラが違いすぎる。
「私は、夕凪麻衣です。よろしくお願いします」
こちらも丁寧に頭を下げる麻衣。
「おい、麻衣。この天笠だが、騙さない方がいいぞ……」
ここまで言った瞬間。鋭いボディーが炸裂した。
「ぐほぉ!」
「……? 蘭、どうかしたの?」
しかも麻衣の死角になる位置でってのがタチが悪い。
「会長、何か言いましたか?」
スマイル全開の天笠だが、その笑顔が怖いってーの。
こうして、俺たち生徒会は発足してしまった訳なのだが、我が南校生徒会は俺と書記の麻衣、そして会計の天笠という三人だけだ。学校側としてはこんな少人数の生徒会でいいのか? 甚だ疑問であるが、仰せつかってしまった以上、面倒以外の何者でもない生徒会とやらの業務をまっとうにこなさなくてはならないのである。まったくもってやれやれだ。
それからと言うもの、すっかり習慣付けられたように放課後生徒会室へ直行し席に着くと、
「会長、コーヒーです」
天笠はからくり人形のようにちょこちょことした足取りで、俺の前にやわらかい湯気が立ち上るコーヒーが置かれた。
「サンキュー」
とりあえず一口啜ると俺は会議資料に目を通し始めた。静まり返る生徒会室。学校の喧騒に中で唯一と言っていいほど静寂が支配した世界だ。なるほど、慣れてしまえば、これはこれでアリかもしれないな。
そんな生徒会室の中で聞こえてくる音といったら、俺が書類を捲る音と天笠がコーヒーを啜る音……のはずなのだが、なぜか今日に限ってはやたらと生徒会室が騒がしい。
「あっ、美羽、コーヒーお代わりね。ちょっと濃いめでお願い」
若干上から目線で追加コーヒーをせがむ声が聞こえる。だがまあ大した問題ではないさと頭を上げずに書類を確認しているが、はて、さっきの声の主は一体誰だ? 麻衣か? いやいや麻衣は天笠を呼び捨てになんかしないはずだ。俺の聞き間違いなのか?