巫部凛のパラドックス(旧作)
だが、まあ、あの世界は巫部が作り出したおかしな世界ってことだし、無事に戻ってこられたのなら良しとするか。
とりあえず、色々考えることはあると思うが、そんなのはひとまず保留だ。俺は生徒会室に戻ると、
「ちょっと、蘭」
いきなりの罵声。声を発した方向に視線を向けると、さっきまで物言わぬ肉の塊だった奴が腰に手を宛て仁王立ちしていた。
「麻衣がいないんだけど、知らない? 掃除当番なのかしら?」
「いや、知らないな。俺は放課後直ぐにこっちに来たからな」
「あっそ、じゃあ、探してきなさい」
右手をビシっと俺に突きつける。ちょっと待て、俺はさっきまでとんでもない状況に置かれていたんだぞ。まだ頭の整理がついていない感じがする。だが、どうだ、ここで反論しようものなら、またとんでもない事を言われるに相違ない。ここは大人しくしたがっておくとするかねえ。
「わかったよ。じゃあ、ちょっと探してくる」
「頼んだわよ! あんたはいなくてもいいけど、麻衣がいないんじゃあ、女子会が開けないじゃない」
意味の分からないことをほざく巫部に辟易としながら、俺は麻衣を探しに廊下をあるくのだった。
とりあえずどこに行こう。携帯でコールしても返ってくるのは、女性オペレーターの冷めた声のみで、こりゃ足で探すしかないのかと思い始めたころ、何気なく俺たちの教室を覗くと女子生徒が机に突っ伏しているじゃないか。
寝ている女子に近づくなんて、若干の後ろめたさがあるものの、なんとなく姿が麻衣っぽいので、近くまでくると、やはり、机で寝ているのは麻衣だった。
「おい、麻衣、起きろもう放課後だぞ」
「うーん」
肩をゆすってやると、なんとも寝坊助な返事が返ってきた。
「おいってば」少し強めに揺すると、ゆっくりと顔を上げた。
「あれ? 蘭?」
「ああ、こんな所で寝て一体どうしたんだ?」
まだ寝ぼけているようで、右手で右目を擦る麻衣は、
「あれ? 寝ちゃってたんだ私」
「そうだぞ、それにもう放課後で生徒会室でみんなが待ってるぞ」
「そうなんだ……」」
未だ麻衣の目は宙を彷徨っているかのようだ。
「どうしたんだ?」
「うん。へんな夢みちゃったみたい」
「へんな夢ってどんな?」
「うん。巫部さんがおかしくなっちゃったの。大人しいっていうか、おしとやかっていうか。でも、クラスメイトに聞いてもみんなおかしくないっていうのよ。巫部さんはむかしからああだったって。でね、その夢じゃ、私と蘭だけが正常で、後の皆は巫部さんの異変に気づいていないのよ」
「そりゃまたおかしな夢だな」
「でね。放課後、蘭と御巫さんがどこかに行っちゃったな、と思ったら、急に目の前が真っ暗になって、気づいたらここで寝てたの」
ため息を吐く麻衣だが、そう言えば、麻衣もさっきまでは正常な記憶だったな。と、いうことは、俺と麻衣、ゆきねだけが巫部が作り出した世界の中で正常でいられるってわけか。
「どうしょう、蘭。巫部さんがおかしくなっちゃった」
泣きそうな顔の麻衣は俺に寄ってくるが、顔が近いぞ。
「そんな訳ないって、巫部は今生徒会室にいるが至って普通だったぞ」
「本当?」
「ああ、本当だ。生徒会室に来ればわかるよ」
そう言って麻衣は立ち上がり、傍若無人大魔王が待つ生徒会室へと向かった。
それからはいつもの通り、巫部は相変わらずぶっ飛んでおり、頷くだけの麻衣とコーヒーメーカーと化した天笠、そして、雑誌の付録のごとくの俺。ああ、いつも通りの時間だな。と、しみじみ思うのであった。
翌日。瞼は重いが学校へ行かなくてはならない。義務教育ではないのでサボってしまおうかとも思っていたが、後々面倒くさそうなので、重い気分を引きずりながらも田園風景のど真ん中を歩いていると、
「おはよう」
不意に後ろから声を掛けられるが、振り向くと麻衣がいつもの笑顔で立っていた。
「よお、おはよう」
そう言い返し二人並んでいつもの通り、学校へと向かう。昨日はとんでもない目に遭わされた。このようにいつもの日常がありがたく思えるな。
ただまあ、昨日のこともあるので、若干ビビリながら、教室の前で中の様子を伺うと、巫部の席には誰もおらず、まだ登校していないようだ。
「巫部はまだ来てないみたいだな」
「いつもこの時間には来てたのにどうしたんだろうね」
麻衣は首を傾げながら巫部の席を見つめていた。まあ、来ていないものはしょうがないさと、教室に入ろうとすると、
「そうねえ、その件は風紀委員と連携を取って勧めてちょうだい」
それっぽい声に視線を廊下の奥に向けると、何故か巫部が取り巻きっぽい奴らの先頭を歩いていた。
「会長、運動部の予算配分についてですけど」
眼鏡をかけ、いかにも優秀ですといった感じの取り巻きの娘が手元の資料を見ながら巫部の横につくと、
「そうねえ、それは明日の全体会議で議論しましょう」
教室の前まで来ると、髪を右手で掻き揚げ、
「じゃ、詳しい事は放課後にね」
そういい残し、俺たちに視線を配る事無く教室へと入ってしまった。もう、俺と麻衣には無言以外の言葉が思い浮かばない。
こりゃ一体そういう事なんだ? 混乱する頭に冷静になれと指令を出し、クラスメイトをとっ捕まえた。
「おっ、おい、ありゃなんなんだ?」
「はあ? あれは、巫部会長だろ、蘭は何言ってんだ?」
「いやいや、なあ、巫部っていうのは、ほら、随分とぶっ飛んだ奴じゃなかったけか?」
「はあ? 何言ってんだ? 巫部さんは正に文武両道、才色兼備という言葉がぴったりな人じゃないか。くうー、あんな娘が彼女だったらなあ」
気持ち悪い笑顔を浮かべているクラスメイトだが、もう駄目だ、俺の理解を超えている気がする。昨日はいきなり大人しくなり、ゆきねにぐっさりとやられた巫部が今日は生徒会長だと? 夢ならいいかげん覚めてくれよ。こんな事が続くと俺の神経がイカれてしまうではないか。
とりあえず、色々考えることはあると思うが、そんなのはひとまず保留だ。俺は生徒会室に戻ると、
「ちょっと、蘭」
いきなりの罵声。声を発した方向に視線を向けると、さっきまで物言わぬ肉の塊だった奴が腰に手を宛て仁王立ちしていた。
「麻衣がいないんだけど、知らない? 掃除当番なのかしら?」
「いや、知らないな。俺は放課後直ぐにこっちに来たからな」
「あっそ、じゃあ、探してきなさい」
右手をビシっと俺に突きつける。ちょっと待て、俺はさっきまでとんでもない状況に置かれていたんだぞ。まだ頭の整理がついていない感じがする。だが、どうだ、ここで反論しようものなら、またとんでもない事を言われるに相違ない。ここは大人しくしたがっておくとするかねえ。
「わかったよ。じゃあ、ちょっと探してくる」
「頼んだわよ! あんたはいなくてもいいけど、麻衣がいないんじゃあ、女子会が開けないじゃない」
意味の分からないことをほざく巫部に辟易としながら、俺は麻衣を探しに廊下をあるくのだった。
とりあえずどこに行こう。携帯でコールしても返ってくるのは、女性オペレーターの冷めた声のみで、こりゃ足で探すしかないのかと思い始めたころ、何気なく俺たちの教室を覗くと女子生徒が机に突っ伏しているじゃないか。
寝ている女子に近づくなんて、若干の後ろめたさがあるものの、なんとなく姿が麻衣っぽいので、近くまでくると、やはり、机で寝ているのは麻衣だった。
「おい、麻衣、起きろもう放課後だぞ」
「うーん」
肩をゆすってやると、なんとも寝坊助な返事が返ってきた。
「おいってば」少し強めに揺すると、ゆっくりと顔を上げた。
「あれ? 蘭?」
「ああ、こんな所で寝て一体どうしたんだ?」
まだ寝ぼけているようで、右手で右目を擦る麻衣は、
「あれ? 寝ちゃってたんだ私」
「そうだぞ、それにもう放課後で生徒会室でみんなが待ってるぞ」
「そうなんだ……」」
未だ麻衣の目は宙を彷徨っているかのようだ。
「どうしたんだ?」
「うん。へんな夢みちゃったみたい」
「へんな夢ってどんな?」
「うん。巫部さんがおかしくなっちゃったの。大人しいっていうか、おしとやかっていうか。でも、クラスメイトに聞いてもみんなおかしくないっていうのよ。巫部さんはむかしからああだったって。でね、その夢じゃ、私と蘭だけが正常で、後の皆は巫部さんの異変に気づいていないのよ」
「そりゃまたおかしな夢だな」
「でね。放課後、蘭と御巫さんがどこかに行っちゃったな、と思ったら、急に目の前が真っ暗になって、気づいたらここで寝てたの」
ため息を吐く麻衣だが、そう言えば、麻衣もさっきまでは正常な記憶だったな。と、いうことは、俺と麻衣、ゆきねだけが巫部が作り出した世界の中で正常でいられるってわけか。
「どうしょう、蘭。巫部さんがおかしくなっちゃった」
泣きそうな顔の麻衣は俺に寄ってくるが、顔が近いぞ。
「そんな訳ないって、巫部は今生徒会室にいるが至って普通だったぞ」
「本当?」
「ああ、本当だ。生徒会室に来ればわかるよ」
そう言って麻衣は立ち上がり、傍若無人大魔王が待つ生徒会室へと向かった。
それからはいつもの通り、巫部は相変わらずぶっ飛んでおり、頷くだけの麻衣とコーヒーメーカーと化した天笠、そして、雑誌の付録のごとくの俺。ああ、いつも通りの時間だな。と、しみじみ思うのであった。
翌日。瞼は重いが学校へ行かなくてはならない。義務教育ではないのでサボってしまおうかとも思っていたが、後々面倒くさそうなので、重い気分を引きずりながらも田園風景のど真ん中を歩いていると、
「おはよう」
不意に後ろから声を掛けられるが、振り向くと麻衣がいつもの笑顔で立っていた。
「よお、おはよう」
そう言い返し二人並んでいつもの通り、学校へと向かう。昨日はとんでもない目に遭わされた。このようにいつもの日常がありがたく思えるな。
ただまあ、昨日のこともあるので、若干ビビリながら、教室の前で中の様子を伺うと、巫部の席には誰もおらず、まだ登校していないようだ。
「巫部はまだ来てないみたいだな」
「いつもこの時間には来てたのにどうしたんだろうね」
麻衣は首を傾げながら巫部の席を見つめていた。まあ、来ていないものはしょうがないさと、教室に入ろうとすると、
「そうねえ、その件は風紀委員と連携を取って勧めてちょうだい」
それっぽい声に視線を廊下の奥に向けると、何故か巫部が取り巻きっぽい奴らの先頭を歩いていた。
「会長、運動部の予算配分についてですけど」
眼鏡をかけ、いかにも優秀ですといった感じの取り巻きの娘が手元の資料を見ながら巫部の横につくと、
「そうねえ、それは明日の全体会議で議論しましょう」
教室の前まで来ると、髪を右手で掻き揚げ、
「じゃ、詳しい事は放課後にね」
そういい残し、俺たちに視線を配る事無く教室へと入ってしまった。もう、俺と麻衣には無言以外の言葉が思い浮かばない。
こりゃ一体そういう事なんだ? 混乱する頭に冷静になれと指令を出し、クラスメイトをとっ捕まえた。
「おっ、おい、ありゃなんなんだ?」
「はあ? あれは、巫部会長だろ、蘭は何言ってんだ?」
「いやいや、なあ、巫部っていうのは、ほら、随分とぶっ飛んだ奴じゃなかったけか?」
「はあ? 何言ってんだ? 巫部さんは正に文武両道、才色兼備という言葉がぴったりな人じゃないか。くうー、あんな娘が彼女だったらなあ」
気持ち悪い笑顔を浮かべているクラスメイトだが、もう駄目だ、俺の理解を超えている気がする。昨日はいきなり大人しくなり、ゆきねにぐっさりとやられた巫部が今日は生徒会長だと? 夢ならいいかげん覚めてくれよ。こんな事が続くと俺の神経がイカれてしまうではないか。