巫部凛のパラドックス(旧作)
本日の授業も右から左に聞き流している。そりゃそうだろ、こんな訳のわからん世界になっちなっているのだからな。昨日までは大人し過ぎて、どちらかと言えば根暗な巫部だったのに対し、今日になったら全校生徒羨望の生徒会長になってやがるなんて、もう、意味がわからん。完全に頭の中が御釈迦になってしまったのかもしれない。もうまともな思考はできそうにないぞ。
こんな調子で考えていたのだが、やはり今日も答えは浮かばない。まあ、当然かもな、今までこんな事態に巻き込まれた事なんてないのだから。時間が経過しても俺の頭はロールプレイングゲームで混乱の呪文を掛けられたモンスター張りにバッドな方向へ向かっている状態なのだが、放課後になるも、俺の思考はまとまらない。昨日の巫部は根暗っ子になっていたし、今日は生徒会長だと? 冗談も甚だしいぜ。
とりあえず、いつものルーティーン通り生徒会室へ行かないとな。サボったらサボったで生徒会顧問にどやされちまうからな。
いまだ自席でボケーっとしている麻衣に声をかけ、生徒会室へ向かうが、その廊下で、
「ねえ、巫部さんが生徒会長って本当なの?」
今まで下を向いていた麻衣は、頼りなさそうな目で俺を見つめてきた。
「そんな訳はないと思うんだけどなあ。あいつが会長だったら俺はどうなるんだって感じだぜ」
「そうよね。私も生徒会選挙の記憶もあるし、気のせいなのかな?」
「ああ、多分みんな俺たちをからかってるだけなんだ。きっと」
なんとなく違う気がすものの、強制的に自我を納得させ、麻衣と二人生徒会室へ向かい、階段を下りたところで対面から歩いてきた天笠とバッタリ出くわした。
「よお天笠、これから生徒会室へ行くのか?」
よかった。ここで生徒会メンバーに遭遇とはなんとも安心感があるな。やっぱ巫部の事は杞憂だったって事だ。
「…………」
「おいおい、どうした? ボーっとしちゃって。いつもの天笠らしくないぞ」
俺の言葉で露骨に怪訝さを増す天笠。この雰囲気はなんとなく、知らない男子にいきなり声をかけられたって感じだぞ。
「美羽ちゃん。こんにちはです」
天笠の態度を不審に思ったのか、今度は麻衣が声をかけている。
「あっ……」
天笠の口が弱々しく動く。
「あっ、あのう、どちら様でしょうか?」
「はい?」
若干の怯えと共に、とんでもない事を口にしやがった。どちら様って、俺と麻衣を忘れたって言うのか? 若年性痴呆症にはまだ早いぞ。
「おいおい、冗談はよせよ。俺だよ」
「心当たりがないのですが。何組の方ですか?」
「ねえ、美羽ちゃん。どうしちゃったの?」
麻衣は寂しそうな表情で天笠を見つめていた。
「どうしたのと言われましても……あのう、人違いではないですか?」
あくまで俺たちを知らないと言い張る天笠。だが、その表情や口調は嘘を付いているようには思えなかった。
押し黙る三人。永遠に続くと思われた静寂は、
「ちょっと、あなた達。生徒会役員に何をやってんの」
どことなく聞いた事のある声によって、あっさりと打ち破られたのだった。
「あっ、会長」
天笠の声に麻衣と同時に振り向くと、巫部が両手を腰に宛がい立っていた。
「天笠さん。これから会議って言ってあったでしょ。早く行くわよ」
「はっ、はい」
踵を返した巫部の後を飼い主を見つけた子犬のように小走りで着いていく天笠。俺と麻衣は呆然としながら見送る事しかできなかった。巫部は数歩歩いた所で立ち止まり振り向くと、
「生徒会への陳情なら生徒会室で聞くわ。お話しがあるのならどうぞ」
そう言って髪をかき上げると再び踵を返し歩いていく。俺達は巫部と天笠が角を曲がるまでその場を動けないでいた。
「やっぱりいつもの巫部さんじゃなわよね」
俯きながら麻衣は呟くが、『いつもの巫部じゃない』どころではない。昨日に引き続き今日も訳のわからない世界に放り込まれたってことか?
うなだれるように廊下を歩いていると、前方から見慣れた少女が歩いてきた。そうだ、俺たちの他にこの世界の秘密を知っている奴がいたじゃないか。こいいつの事をすっかり忘れているなんて、テンパり具合も全開だったようだ。
「……」
ゆきねは俺たちの目の前までくると、こんな無言をぶつけてきた。
「よっ、よお、今お帰りか?」
「…………こっち」
麻衣に聞こえないように小さく呟いたゆきねは、視線を階段の方へと向けた。
「すまん。麻衣、ちょっとここで待っててくれ」
「えっ、蘭。ちょっと」
少し不安そうな顔になった麻衣を残しゆきねと階段へ向かう。昨日と同じ場所。屋上へと続く踊り場へとやってきた。こんな訳のわからん世界でもこいつが仲間だと結構心強く感じちまうぜ。まあ、以前は殺されかけた訳だがな。
「なっ、なあ、巫部のやつ、今日は生徒会長になってるぞ」
「この世界は昨日の世界とは違うわよ。数ある可能性の一つに過ぎないの。私たちが平行に広がる世界を彷徨っているだけだと思われるわ」
いやいやいや、意味がわからない。
こんな調子で考えていたのだが、やはり今日も答えは浮かばない。まあ、当然かもな、今までこんな事態に巻き込まれた事なんてないのだから。時間が経過しても俺の頭はロールプレイングゲームで混乱の呪文を掛けられたモンスター張りにバッドな方向へ向かっている状態なのだが、放課後になるも、俺の思考はまとまらない。昨日の巫部は根暗っ子になっていたし、今日は生徒会長だと? 冗談も甚だしいぜ。
とりあえず、いつものルーティーン通り生徒会室へ行かないとな。サボったらサボったで生徒会顧問にどやされちまうからな。
いまだ自席でボケーっとしている麻衣に声をかけ、生徒会室へ向かうが、その廊下で、
「ねえ、巫部さんが生徒会長って本当なの?」
今まで下を向いていた麻衣は、頼りなさそうな目で俺を見つめてきた。
「そんな訳はないと思うんだけどなあ。あいつが会長だったら俺はどうなるんだって感じだぜ」
「そうよね。私も生徒会選挙の記憶もあるし、気のせいなのかな?」
「ああ、多分みんな俺たちをからかってるだけなんだ。きっと」
なんとなく違う気がすものの、強制的に自我を納得させ、麻衣と二人生徒会室へ向かい、階段を下りたところで対面から歩いてきた天笠とバッタリ出くわした。
「よお天笠、これから生徒会室へ行くのか?」
よかった。ここで生徒会メンバーに遭遇とはなんとも安心感があるな。やっぱ巫部の事は杞憂だったって事だ。
「…………」
「おいおい、どうした? ボーっとしちゃって。いつもの天笠らしくないぞ」
俺の言葉で露骨に怪訝さを増す天笠。この雰囲気はなんとなく、知らない男子にいきなり声をかけられたって感じだぞ。
「美羽ちゃん。こんにちはです」
天笠の態度を不審に思ったのか、今度は麻衣が声をかけている。
「あっ……」
天笠の口が弱々しく動く。
「あっ、あのう、どちら様でしょうか?」
「はい?」
若干の怯えと共に、とんでもない事を口にしやがった。どちら様って、俺と麻衣を忘れたって言うのか? 若年性痴呆症にはまだ早いぞ。
「おいおい、冗談はよせよ。俺だよ」
「心当たりがないのですが。何組の方ですか?」
「ねえ、美羽ちゃん。どうしちゃったの?」
麻衣は寂しそうな表情で天笠を見つめていた。
「どうしたのと言われましても……あのう、人違いではないですか?」
あくまで俺たちを知らないと言い張る天笠。だが、その表情や口調は嘘を付いているようには思えなかった。
押し黙る三人。永遠に続くと思われた静寂は、
「ちょっと、あなた達。生徒会役員に何をやってんの」
どことなく聞いた事のある声によって、あっさりと打ち破られたのだった。
「あっ、会長」
天笠の声に麻衣と同時に振り向くと、巫部が両手を腰に宛がい立っていた。
「天笠さん。これから会議って言ってあったでしょ。早く行くわよ」
「はっ、はい」
踵を返した巫部の後を飼い主を見つけた子犬のように小走りで着いていく天笠。俺と麻衣は呆然としながら見送る事しかできなかった。巫部は数歩歩いた所で立ち止まり振り向くと、
「生徒会への陳情なら生徒会室で聞くわ。お話しがあるのならどうぞ」
そう言って髪をかき上げると再び踵を返し歩いていく。俺達は巫部と天笠が角を曲がるまでその場を動けないでいた。
「やっぱりいつもの巫部さんじゃなわよね」
俯きながら麻衣は呟くが、『いつもの巫部じゃない』どころではない。昨日に引き続き今日も訳のわからない世界に放り込まれたってことか?
うなだれるように廊下を歩いていると、前方から見慣れた少女が歩いてきた。そうだ、俺たちの他にこの世界の秘密を知っている奴がいたじゃないか。こいいつの事をすっかり忘れているなんて、テンパり具合も全開だったようだ。
「……」
ゆきねは俺たちの目の前までくると、こんな無言をぶつけてきた。
「よっ、よお、今お帰りか?」
「…………こっち」
麻衣に聞こえないように小さく呟いたゆきねは、視線を階段の方へと向けた。
「すまん。麻衣、ちょっとここで待っててくれ」
「えっ、蘭。ちょっと」
少し不安そうな顔になった麻衣を残しゆきねと階段へ向かう。昨日と同じ場所。屋上へと続く踊り場へとやってきた。こんな訳のわからん世界でもこいつが仲間だと結構心強く感じちまうぜ。まあ、以前は殺されかけた訳だがな。
「なっ、なあ、巫部のやつ、今日は生徒会長になってるぞ」
「この世界は昨日の世界とは違うわよ。数ある可能性の一つに過ぎないの。私たちが平行に広がる世界を彷徨っているだけだと思われるわ」
いやいやいや、意味がわからない。