巫部凛のパラドックス(旧作)
「えっ、えっ、きゃあ」
 麻衣はその場にしゃがみこんでしまい、巫部はと言うと、
「何? 地震?」
 そう言って、俺の腕に引っ付いてきた。右腕が引っ張られ身動きが取れない俺。しばらくは震度七くらいありそうな揺れが続いていたが次第に揺れが弱くなり、再び静かな屋上へと戻っていった。
「いっ、今のは何? 地震?」
 俺の腕に引っ付きながら呟く巫部だが、はっきり言って腕に押付けられている胸の感触が心地良い。
「地震にしては短かったな。なんなんだろう」
 俺がそう言うのと同時だった。上の方から何かが剥離するような音が聞こえ、見上げると、闇の世界に亀裂が走っているじゃねえか!
「なっ、何? 今度は何が起こるの?」
 麻衣はしゃがみこんだまま、両手で両耳を塞ぎ、目を瞑ったままだった。
 そうしている間に闇に入った亀裂は地平線まで届き、文字通り空が割れていくかのような感覚に捉われた。
「もっ、もしかして間に合わなかったのか?」
 その言葉も虚しく闇の中に消え、目の前の闇は剥がれ落ちる寸前だった。
「ヤバイぞ、校舎の中に逃げよう」
 俺が言うと同時に三人で校舎に向かって走り出すが、轟音とともに闇の一部が崩れ落ち、校舎内へと続く階段を破壊した。
「――っ!」
 目の前には剥がれ落ちた闇の一部。見る限りでは真っ黒い物体だが、そんな物が俺たちの進路を塞いでしまい。校舎内に戻れず立ち往生してしまった。
「ねえ、どうしよう」
 隣では力なく巫部が俺の制服を引っ張っているが、この状況を考えるに、もうどうしようもないのではないか?
 と、ぼんやり思っている間にも闇の一部が剥がれ落ち続けている。周囲に落下したものが散乱し、避けながら屋上内を逃げ回るが、そろそろ限界が近づいてきたぞ。そして次の瞬間、今まで俺たちの上空にあった一番大きな塊が俺たち目掛け落下してきた。これはやばい。確実に避けられないぞ。まさにここで、バッドそして、デッドエンドじゃないか。もうなす術はないのか? だがまあ、この二人と最後の時を迎えられるのであれば、それはそれで悔いもないかもしれないな。


「きゃあああ」


 巫部と麻衣の悲鳴が重なり俺たちを闇の世界が覆った。
< 63 / 67 >

この作品をシェア

pagetop