巫部凛のパラドックス(旧作)
…………
……
「――ん?」
一瞬で開いた俺の目に飛び込んできたのはいつもの見慣れた白い天井だった。
「……あれ?」
俺って寝ていたのか? しかも生徒会室で。たしか、闇が支配する世界でゆきねと共に戦い、麻衣と共に巫部の迷いを断ち切ったんじゃなかったんだっけ? しかも巫部とはキスしそうになるなんて……。
「ぐわっ!」
なんという最悪の展開。まさかの夢オチなのか! いやいやそんなはずはない、落ち着け俺。闇の世界の静寂さと闇の崩壊。ついさっき起こった出来事を完全に記憶しているし、夢ってことはないどろう。だとすると何で俺はここで寝ていたんだ?
若干の混乱と共にゆっくりと首を周囲に巡らせてみると、
「…………」
巫部と麻衣が気持ち良さそうに机に突っ伏しながら寝息を立てているじゃないか。暫くは茫然自失だ。生徒会室で三人とも寝ていただと? とりあえず二人を起こしてみるか。
隣では文字通り気持ち良さそうに寝息を立てている麻衣がいた。しかし寝顔っていうのは反則的なまでにカワイイな。
「おい、麻衣、しっかりしろ」
そう言って肩を揺らすと、
「ん? もう少しだけ……」
甘えた声を出しやがった。これはこれドキリとさせられるものがあるが、いやいやここで変な下心を出すわけにはいかない。
「もう少しじゃない。起きろ」
「ん? あ……れ? 蘭?」
「しかっりしろ、ちゃんと起きろって」
「あれ? 蘭が私より先に起きてる。いつもは私が起こすのに……」
思いっきり誤解を招くような事を言うな。
「ほら麻衣、起きろって」
机から麻衣を引っぺがすように起こすと、
「ん? あれ? 蘭どうしたの?」
状況が把握できていないのか、ぼんやりとした視点が合わないような表情で俺を見つめる麻衣。
やっと起きたか。次は巫部だな。
「おーい、巫部。起きろ」
腕を枕代わりにしている巫部の頭をぺしぺしと叩いてみる。
「うっ、うううん」
突然ピクッと体が震えると、右手で右目を擦りながら巫部が机から顔を起こした。
「よお、おはよう」
「あ……あれ? どうしたのよ」
「起きたか?」
「んん。ちょっと頭が痛いけどね。大したことないわ」
「ここがどこだかわかるか?」
巫部はぼんやりした表情で窓の方に視線を移すと、
「ええと、生徒会室? あれ? 明るい」
そう言って窓の外に視線を向けた。
暫くは三人とも茫然自失状態でぼんやりと目の前の空間を見つめていたのだが、何故生徒会室にいるのだろうか。
「なあ、俺たちって助かったのか?」
俺が口火を切り、二人の様子を伺うと、
「ええ、外は明るいし、ここはもう元の世界なんじゃないの?」
巫部は西日が射す窓を見上げながら呟いた。
「確か最後は、黒いのが落ちてきたんだよね。それで私たち死んじゃうって思ったんだけど」
麻衣は、指を唇に添え、首を捻っていた。二人ともあの世界の記憶があるということは、闇の世界での事はリアルな出来事だったのだな。そして、周囲の状況を見る限りどうやら俺たちは元の世界に帰って来たっぽい。生徒会室には西日が燦々と差し、蒸し暑さを感じるし、やっぱ俺たちは帰ってきたんだなと思う。
「だが、一つ謎がある」
とりあえず思った事を口にしておこう。
「何で俺たちはここで寝てたんだ?」
確かに、闇が崩れてきて、もう駄目だと思ったらここで寝ていた。この不可思議な現象はどういうことなんだ?
「そうね。なんで寝てたのかしら」巫部も首を捻り、
「そうだねえ、なんでだろうね」麻衣もしきりに頷いている。
「まさか俺たち全員で同じ夢を見ていたんじゃないよな?」
巫部は冷たい視線を俺に向け、
「そんな夢オチあるわけないでしょ。本当、あんたはアホなんだから」
「じゃあ、この状況はなんなんだよ」
「だから、それを考えてるんでしょ。ああ! もう考えがまとまらないじゃない」
髪をくしゃくしゃと掻きながら悪態を付く巫部に、俺は「ああ、本当に戻ってきたんだな」と実感するのであった。
「まあ、ここで悩んでても仕方ないだろ。帰ろうぜ」
俺は二人を促し、西日に反射する校舎を見上げながら校門をくぐった。
水田に囲まれた道を三人で歩きながら視線を横に向けてみる。水田に反射した夕陽がその存在を俺たちに伝えるように輝いていた。さっきまでは太陽なんてどこにもいない闇の世界に居たわけだから余計に眩しく感じるぜ。
駅で巫部と別れ、俺と麻衣の二人になった。お互い言葉がなく、夕焼けの道を歩いていると、
「ねえ、蘭。御巫さんの事なんだけど」
「ん? ゆきねがどうかしたのか?」
「私たちは、気が付いたら生徒会室にいたわよね。三人そろって。じゃあ、御巫さんは?」
麻衣の言葉にふやけかけていた脳みそが一瞬で収縮した。そうだ、俺たちは全員生徒会室で寝ている状態だった。だが、校舎内で別れたゆきねはどうしたんだ?
「ねえ、蘭ったら」
麻衣が制服を掴んで揺すっているが、俺は考えなければ。闇の世界の崩壊。黒い物体が降り注ぐ屋上。そして最後は校舎をぶっ壊すほどの黒黒黒。ってことはもしかして……。
「まさか、校舎が壊れた時に巻き込まれちゃったの?」
口にしたのは麻衣だった。
……
「――ん?」
一瞬で開いた俺の目に飛び込んできたのはいつもの見慣れた白い天井だった。
「……あれ?」
俺って寝ていたのか? しかも生徒会室で。たしか、闇が支配する世界でゆきねと共に戦い、麻衣と共に巫部の迷いを断ち切ったんじゃなかったんだっけ? しかも巫部とはキスしそうになるなんて……。
「ぐわっ!」
なんという最悪の展開。まさかの夢オチなのか! いやいやそんなはずはない、落ち着け俺。闇の世界の静寂さと闇の崩壊。ついさっき起こった出来事を完全に記憶しているし、夢ってことはないどろう。だとすると何で俺はここで寝ていたんだ?
若干の混乱と共にゆっくりと首を周囲に巡らせてみると、
「…………」
巫部と麻衣が気持ち良さそうに机に突っ伏しながら寝息を立てているじゃないか。暫くは茫然自失だ。生徒会室で三人とも寝ていただと? とりあえず二人を起こしてみるか。
隣では文字通り気持ち良さそうに寝息を立てている麻衣がいた。しかし寝顔っていうのは反則的なまでにカワイイな。
「おい、麻衣、しっかりしろ」
そう言って肩を揺らすと、
「ん? もう少しだけ……」
甘えた声を出しやがった。これはこれドキリとさせられるものがあるが、いやいやここで変な下心を出すわけにはいかない。
「もう少しじゃない。起きろ」
「ん? あ……れ? 蘭?」
「しかっりしろ、ちゃんと起きろって」
「あれ? 蘭が私より先に起きてる。いつもは私が起こすのに……」
思いっきり誤解を招くような事を言うな。
「ほら麻衣、起きろって」
机から麻衣を引っぺがすように起こすと、
「ん? あれ? 蘭どうしたの?」
状況が把握できていないのか、ぼんやりとした視点が合わないような表情で俺を見つめる麻衣。
やっと起きたか。次は巫部だな。
「おーい、巫部。起きろ」
腕を枕代わりにしている巫部の頭をぺしぺしと叩いてみる。
「うっ、うううん」
突然ピクッと体が震えると、右手で右目を擦りながら巫部が机から顔を起こした。
「よお、おはよう」
「あ……あれ? どうしたのよ」
「起きたか?」
「んん。ちょっと頭が痛いけどね。大したことないわ」
「ここがどこだかわかるか?」
巫部はぼんやりした表情で窓の方に視線を移すと、
「ええと、生徒会室? あれ? 明るい」
そう言って窓の外に視線を向けた。
暫くは三人とも茫然自失状態でぼんやりと目の前の空間を見つめていたのだが、何故生徒会室にいるのだろうか。
「なあ、俺たちって助かったのか?」
俺が口火を切り、二人の様子を伺うと、
「ええ、外は明るいし、ここはもう元の世界なんじゃないの?」
巫部は西日が射す窓を見上げながら呟いた。
「確か最後は、黒いのが落ちてきたんだよね。それで私たち死んじゃうって思ったんだけど」
麻衣は、指を唇に添え、首を捻っていた。二人ともあの世界の記憶があるということは、闇の世界での事はリアルな出来事だったのだな。そして、周囲の状況を見る限りどうやら俺たちは元の世界に帰って来たっぽい。生徒会室には西日が燦々と差し、蒸し暑さを感じるし、やっぱ俺たちは帰ってきたんだなと思う。
「だが、一つ謎がある」
とりあえず思った事を口にしておこう。
「何で俺たちはここで寝てたんだ?」
確かに、闇が崩れてきて、もう駄目だと思ったらここで寝ていた。この不可思議な現象はどういうことなんだ?
「そうね。なんで寝てたのかしら」巫部も首を捻り、
「そうだねえ、なんでだろうね」麻衣もしきりに頷いている。
「まさか俺たち全員で同じ夢を見ていたんじゃないよな?」
巫部は冷たい視線を俺に向け、
「そんな夢オチあるわけないでしょ。本当、あんたはアホなんだから」
「じゃあ、この状況はなんなんだよ」
「だから、それを考えてるんでしょ。ああ! もう考えがまとまらないじゃない」
髪をくしゃくしゃと掻きながら悪態を付く巫部に、俺は「ああ、本当に戻ってきたんだな」と実感するのであった。
「まあ、ここで悩んでても仕方ないだろ。帰ろうぜ」
俺は二人を促し、西日に反射する校舎を見上げながら校門をくぐった。
水田に囲まれた道を三人で歩きながら視線を横に向けてみる。水田に反射した夕陽がその存在を俺たちに伝えるように輝いていた。さっきまでは太陽なんてどこにもいない闇の世界に居たわけだから余計に眩しく感じるぜ。
駅で巫部と別れ、俺と麻衣の二人になった。お互い言葉がなく、夕焼けの道を歩いていると、
「ねえ、蘭。御巫さんの事なんだけど」
「ん? ゆきねがどうかしたのか?」
「私たちは、気が付いたら生徒会室にいたわよね。三人そろって。じゃあ、御巫さんは?」
麻衣の言葉にふやけかけていた脳みそが一瞬で収縮した。そうだ、俺たちは全員生徒会室で寝ている状態だった。だが、校舎内で別れたゆきねはどうしたんだ?
「ねえ、蘭ったら」
麻衣が制服を掴んで揺すっているが、俺は考えなければ。闇の世界の崩壊。黒い物体が降り注ぐ屋上。そして最後は校舎をぶっ壊すほどの黒黒黒。ってことはもしかして……。
「まさか、校舎が壊れた時に巻き込まれちゃったの?」
口にしたのは麻衣だった。