巫部凛のパラドックス(旧作)
「うっ、嘘で諸しょ。やっと仲良くなれたと思ったのに……」
 麻衣の目からは涙が溢れ、頬を伝い地面に落ちている。
「まっ、待てって。確かにあの世界の校舎は崩壊したけど、ゆきねが巻き込まれたってきまった訳じゃないだろ。もしかすると助かってるかもしれないぞ」
「本当に?」
 しゃくりあげながら顔を上げる麻衣だが、当の俺も麻衣を励ますのに言っているのであって、本心では、あの崩壊に巻き込まれたら助からないかも。と、ネガティブシンクになっている。
「と、とりあえず結論はださないようにしようぜ。ほら、家に帰ろう」
「そうね……」
 それからの俺たちは一切会話がなかった。お互いがゆきねの事を考えていたのだろう。気が付くと家の前だった。
 翌日、俺の人間としての機能は正常に戻ったらしい、時計に視線を移すと短い方の針は七の数字を指していた。なんとなく、昨日はいろいろありすぎて絶対に起きられないと思っていたのだが、こうして目が覚めてしまった以上、学校へ行かなくてはならない。制服に袖を通し、麻衣と合流して学校へと向かう。電車を降り、学校へと続く田んぼ道を歩いていると、 ポニーテールを揺らしながら麻衣が俺を覗き込んできた。
「ねえ、蘭」
「なんだ?」
「結局、凜ちゃんの迷いって言うのは断ち切れたの?」
「ん? ああ、俺たちがこうして生きているってことは成功したんじゃないのか」
「そうなんだ。凜ちゃんも納得してくれたんだね」
 そう言って麻衣は俺の前に回りこみ、鞄を後ろでに持ち、笑顔を見せた。昨日は泣き顔しか見ていなかったが、麻衣のこの顔を見られただけでも、この世界を救ってよかったと言う気分になってくるぜ。
「あっ、そうだ? あのね蘭。あっちの世界の最後なんだけど、私屋上に行ってからあんまり記憶がないんだけど、何かあった?」
 人差し指を口に添え、何かを考え込んでいるようだが、待てよ、確か……。
「いやいや、何もなかった。至って穏やかな話し合いだったぞ」
「ふーん。そうなんだ。で、なんで蘭は顔を赤くしてるの?」
「いっ、いやそんな事はない。ほら、ええと暑いからだろきっと」
「むー。何かエッチな事があったんじゃないの。白状しなさい」
 そう言って鞄を振り回し俺を追いかけて来る。まったく、これじゃあ、教室に着く前に汗だくになっちまうだろうが。でも、こんな日常が戻って来てくれた事が飛び跳ねるほど嬉しいぜ。
 来週からテストだけあって相変わらず教師陣の気合バッチリな授業が続くが俺はと言うとこれまたいつもどおりであった。中間なんぞ一夜漬けで十分なんだよ。と、若干逆ギレ気味に窓の外をぼんやり見つめながら、午後の授業も相変わらず右から左へ聞き流し、掃除当番である麻衣と巫部を残して、一人生徒会室へと向かった。
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