巫部凛のパラドックス(旧作)
「よおっす」
軽い挨拶をしてドアを開けると、
「……」
こんな無言が俺を迎え入れた。窓際に座っている天笠は、絵画かなにかのように妙に絵になる構図だった。
「どうしたんだ? 一体?」
正面周り、顔を覗き込むと、
「えっ? えっ?」
急に慌てふためき、挙動不審になっていた。
「ボーっとしちゃって、どうしたんだ?」
慌てる天笠なんて珍しいもんを見たもんだ。俺は鞄をテーブルの上に置き、いつもの席に腰を下ろすと、
「あっ、あの会長……」
告白でもするように、天笠は手を胸の前で合わせているが、その真剣な表情に何故か俺が緊張しちまうぜ。もう少しで次の言葉が発せられるという瞬間、
「お疲れー。美羽、コーヒーちょうだい!」
「遅れちゃってごめんなさい」
巫部と麻衣が乱入してきて一気に部屋が騒々しくなった。
「あっ、巫部さん、麻衣さんお疲れさまです。直ぐにコーヒー淹れますね」
天笠は二人に向き直ると電気ポットに向かいインスタントコーヒーを開けているが、さっきのは一体なんだったんだ? 何かを言いかけていたが、続きがないってことは、大した話じゃないんだろうな。
翌週。中間試験という忌々しい行事が厳かに執り行われた。一夜漬けに挑んだ俺は悉く撃沈され、『生徒会長留年か?』と言う噂まで流れたほどだ。まだテストは返ってきていないから大丈夫だと思うが、多分……。
「テストも終わったし、しばらくはのんびりできるな」
いつもの田園風景のど真ん中を麻衣と二人で歩いていた。
「そうね、今度の休みはどこに行こうかな?」
めずらしく麻衣もそっち方面の会話に食いついてきた。やっぱこいつも試験が終わって気が抜けているんだろうな。
「ねえ、蘭は何か予定入っているの?」
「いや、特に予定は入ってないぜ。ゆっくりまったり過ごすのみだ」
「追試と補習があるけどね」
ニヤケ顔で俺を覗き込むが、まだ決定した訳ではない。鉛筆転がしの奇跡が起きれば免れるんだぞ。
「はいはい、後で教えてーって言っても絶対教えないんだからね」
「すみません。教えてください」
ここは素直に謝っておかないと追試の追試という死のループが俺を待っているのかもしれないしな。
そんな、いつも通りの会話をしながら教室に入ると、
「ちょっと! 遅いじゃない。何やってたのよ!」
朝っぱらから怒号が聞こえるが、こんな事を発するのは俺の脳内ハードディスクでは一人しか思い浮かばないぜ。
「なんだよ、巫部、朝っぱらから」
「なんだよ、じゃないわよ。何時から待ってると思ってるの!」
両手を腰に宛がい仁王立ちしているが、待ったって、たかだか十分くらいだろうが。
「何をぶつぶつ言ってるのよ」
巫部は完璧に俺を見下した表情でいるが、これもいつもの事。俺たちの標準の出来事ってわけだ。
授業が終わり放課後となるが、本日も我が生徒会は通常営業。相変わらず闖入してくる巫部に、それに頷くだけの麻衣。そして、全てが謎な天笠と、完璧なまでにいつも通り我が生徒会に戻ったのだった。
軽い挨拶をしてドアを開けると、
「……」
こんな無言が俺を迎え入れた。窓際に座っている天笠は、絵画かなにかのように妙に絵になる構図だった。
「どうしたんだ? 一体?」
正面周り、顔を覗き込むと、
「えっ? えっ?」
急に慌てふためき、挙動不審になっていた。
「ボーっとしちゃって、どうしたんだ?」
慌てる天笠なんて珍しいもんを見たもんだ。俺は鞄をテーブルの上に置き、いつもの席に腰を下ろすと、
「あっ、あの会長……」
告白でもするように、天笠は手を胸の前で合わせているが、その真剣な表情に何故か俺が緊張しちまうぜ。もう少しで次の言葉が発せられるという瞬間、
「お疲れー。美羽、コーヒーちょうだい!」
「遅れちゃってごめんなさい」
巫部と麻衣が乱入してきて一気に部屋が騒々しくなった。
「あっ、巫部さん、麻衣さんお疲れさまです。直ぐにコーヒー淹れますね」
天笠は二人に向き直ると電気ポットに向かいインスタントコーヒーを開けているが、さっきのは一体なんだったんだ? 何かを言いかけていたが、続きがないってことは、大した話じゃないんだろうな。
翌週。中間試験という忌々しい行事が厳かに執り行われた。一夜漬けに挑んだ俺は悉く撃沈され、『生徒会長留年か?』と言う噂まで流れたほどだ。まだテストは返ってきていないから大丈夫だと思うが、多分……。
「テストも終わったし、しばらくはのんびりできるな」
いつもの田園風景のど真ん中を麻衣と二人で歩いていた。
「そうね、今度の休みはどこに行こうかな?」
めずらしく麻衣もそっち方面の会話に食いついてきた。やっぱこいつも試験が終わって気が抜けているんだろうな。
「ねえ、蘭は何か予定入っているの?」
「いや、特に予定は入ってないぜ。ゆっくりまったり過ごすのみだ」
「追試と補習があるけどね」
ニヤケ顔で俺を覗き込むが、まだ決定した訳ではない。鉛筆転がしの奇跡が起きれば免れるんだぞ。
「はいはい、後で教えてーって言っても絶対教えないんだからね」
「すみません。教えてください」
ここは素直に謝っておかないと追試の追試という死のループが俺を待っているのかもしれないしな。
そんな、いつも通りの会話をしながら教室に入ると、
「ちょっと! 遅いじゃない。何やってたのよ!」
朝っぱらから怒号が聞こえるが、こんな事を発するのは俺の脳内ハードディスクでは一人しか思い浮かばないぜ。
「なんだよ、巫部、朝っぱらから」
「なんだよ、じゃないわよ。何時から待ってると思ってるの!」
両手を腰に宛がい仁王立ちしているが、待ったって、たかだか十分くらいだろうが。
「何をぶつぶつ言ってるのよ」
巫部は完璧に俺を見下した表情でいるが、これもいつもの事。俺たちの標準の出来事ってわけだ。
授業が終わり放課後となるが、本日も我が生徒会は通常営業。相変わらず闖入してくる巫部に、それに頷くだけの麻衣。そして、全てが謎な天笠と、完璧なまでにいつも通り我が生徒会に戻ったのだった。