キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉



次の日。

テストが終わった解放感か、今日がバレンタインだからか、学校中が浮足立ってふわふわ揺れていた。

なべっちは昨日作ったケーキを鞄に忍ばせて、放課後が来るのを心待ちにしていた。


「知枝里は昼休み、頑張るんでしょ!?」


なべっちは事情を知らない。

あたしは曖昧に笑って、返事はしなかった。


「安堂くん朝から引っ切りなしに呼び出しばっかで……、でも今年も去年同様、誰の呼び出しにも行ってないね」


去年はそれで結局、靴箱にみんな置いて帰ったのだとか。


「でも知枝里は良かったよね!逢い引き場所があるんでしょ!?」


なべっちのウインクにも応えることが出来なかった。

安堂くんはどうやら、学校にはチョコを持ってきていない様子だ。

いつ、渡すんだろう。

どこで…?

二人は3年も付き合ってたんだ。

先生の家だって知ってるだろうし、家にだって行ったり……、泊まったり、

キス、だって………。


「―――……っ」


昨日の夜から、何かがおかしい。

胸のつっかえは、昨日取れたはずなのに、一昨日よりもずっとずっと苦しい。

恋はしたことないけれど、女の勘ってあると思う。


――先生はまだ、安堂くんのことが好き。


あの顔は、彼の話をするなべっちの顔と一緒だった。

その人のことが好きって、大好きって、言ってる顔だった―――。


「なべっち、あたしちょっとトイレ行ってくるね」

「あ、ちょっと、知枝里っ」


あたしは何を期待してたんだろう。

チョコを持っていった時、事情を話して渡した時、安堂くんにどんな態度を取って欲しかったんだろう。

なんて言ってもらいたかったんだろう。

あたしはどうしたいんだろう。


…安堂くんのこと、どう思ってるんだろう…。


「あ、あの、小林さん…っ」


トイレに行かず、渡り廊下で一人ぼんやりと空を見上げていたら、後ろから声を掛けられた。


「はい…?」

「あの、今、ちょっといいかな?」


赤い顔した男子が何か焦って、頭を掻いている。


「俺、平瀬の友達の安川って言うんですけど…」


安川…?

平瀬……?


「ああ、なべっちの!」


頷くと、彼は恥ずかしそうに頷いた。


「実は―…、これ…」


差し出されたそれに、あたしの時は止まった。

その瞬間、突然の雷が鳴り響き――…。

晴れていた空が、黒い雨雲で覆われていった――。



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