キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
今日と言う日に、雨が降るのは反則だ。
(なんで置き傘、置いてたかなぁ…)
や、この大雨なら、あった方が絶対いいんだけど。
バレンタインという日に一人で帰ってるってのが、浮き彫りになるだけで、全然いいんだけど。
ため息をつきながら、学生玄関から外に出た。
「うげー…」
凄い雨。昼間の天気がうそみたい。
入口で空を見上げていると、隣をカップルが追い越していく。
二人で一本の傘に入って、仲良さそうに身を寄せ合って。
少し前までは、そんな姿を見れば、誰彼構わず羨ましがってた。
彼氏が欲しい、彼氏が欲しいってただの口癖みたいに。
でも、今日安川くんにチョコを貰って気付いた。
チョコは、好きって言葉は、やっぱり好きな人から貰わないとダメだってこと。
“彼氏が欲しい”んじゃなく、
“あの人と付き合いたい”じゃなきゃダメなんだってこと。
今になって、安堂くんの言葉の意味を、その真髄から理解するなんて思わなかった。
トボトボと一人、校庭を突っ切って校門を出た。
校門を出て、左に曲がる。
意外にも傘を持ってきていた人は多かったらしく、校門を出てすぐの所には、黒い大きな傘を差して、誰かを待っている男子がいた。
(ここで待たずに、玄関のとこで待っててあげなよ…)
たとえ二人とも傘持っててもさ…、とロマンのカケラもない男はどんな顔かと、あたしは傘を上げた。
「……お守り、めちゃくちゃ濡れてるよ」
そちらを見た瞬間、傘を目深に差していたその人も、同時に傘を上げていた。
「……なっ…、あんど…」
「しっ。バレるとうるさいから」
「え。ちょ、まっ…」
会って5秒で引っ張られた。
承諾なんかしてないのに、この男はやっぱり強引に。
どこにそんな力を隠しているのか、細い腕であたしを引っ張る。
「ちょ、ちょっと…!そんなに速く歩いたら傘、壊れる…!あたしの傘、折りたたみなんだから…っ」
この男は強引だ。
人の事情なんてお構いなしだ。
「いーじゃん、そんな傘」
「な、何ですって!?」
怒った瞬間、突風が吹いた。
「あ゛ーーーーーーーーー!!!」
傘なんてなかった方が良かったと思ったのは、やっぱり間違いだった。
少しでも、この冷たい雨を凌げるのなら―――。
「あ、安堂くん、あんたねぇ…!!!」
折れた傘に、怒りに任せて叫ぼうとした瞬間、自分が濡れていないことに気付いた。
そして、顔の前に、一本の鉄の棒があることも。
「そんな傘、なくてもいーじゃん」
気が付けば、なぜか安堂くんの傘の中にいた。