キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「あ、安堂くんひどいよー…!お父さんのこと“あの人”だなんてっ。安堂くん息子なのにー」
わざと視線を落として、明るく言った。
それでも安堂くんは平然と冷たい顔をしている。
「あの人は息子だなんて思ってないかもよ?」
「……え…?」
「あ、コーヒー出来たよ。牛乳入れて早くコーヒー牛乳にしたら?」
そう言った安堂くんはいつもの安堂くんに戻っていた。
ちょっと意地悪で無表情。
でもさっきみたいな冷たい顔はしていない。
マグカップと牛乳を渡されたら、それ以上、何も聞けなくなった。
それからは、当たり障りのない話しか出来なかった。
おいしそうだと思って買ったケーキも味が分からなかった。
ただ笑ってないと、心が苦しくなって、
距離を保ってないと、泣きそうだった。
もし、安堂くんの中に踏み込んで、さっきみたいな顔をされてしまったら、あたしはきっと立ち直れない。
だから必死に笑っていた。
それでも一緒に居られることは嬉しくて―――…。
時間はあっという間に過ぎて行った。
「駅まで送る。上着持ってくるからちょっと待ってて」
リビングから出て、玄関へ続く廊下の途中で安堂くんが部屋に消えて行った。
なんだか寂しいと感じたこの家の、理由が分かった気がした。
この家には、写真が一枚も飾られていない。
安堂くんの部屋にもリビングにも。
ただの1枚も。
「どーした?お化けでもいた?」
玄関で、ドアを見つめて立っていたあたしに安堂くんが言った。
「今日の小林、いつも以上に変じゃない?髪の毛、重力に逆らって爆発してるし」
なんて、失礼な。
「こ、これは、お団子で!モデルのモアちゃんがしていた髪型でっ!!!」
感じた寂しさを隠して、お団子頭を抗議した。
安堂くんは靴を履きながら、相変わらずロマンのカケラもないことを言う。
あたしはそれに身振り手振りで異議申し立てた。
誰のために朝起きしたと思ってるんだ!