キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉



「ナッチは可愛いって言ってくれたし!!!」

「そりゃオトモダチならお世辞くらい言うでしょ」


安堂くんは取り合ってくれない。


「スカートもさ……、それで電車乗ってきたの?」


それはつまりあれですか。

こんな太い足を人様に晒してきたんですかってことですか。


「わ、悪い…!?」

「悪いね。小林ってほんと全然分かってない」


安堂くんは呆れた顔で、参考書をめくっていた。


「そーゆー格好って、頭悪く見えるからやめた方がいーよ。それに、そんなのに時間とってるから、この前教えたこんな問題も解けないんだよ」

「…………………、」


その言葉に、あたしの中の何かがプツリと来た。


「………たわね…」

「……は?」

「悪かったわね!!」


あたしは涙を堪えて、怒りに震える頬を向けた。

あたしにとって、一世一代の勝負服で、お小遣を注ぎ込んで買った勝負下着で、着てるだけでドキドキして、それは全て好きな人に少しでも可愛いって思ってもらいたい心からの努力で、寝る時間も惜しんで考えた、気持ちを伝えるセリフとかもあって、でもそんなの、安堂くんにとっては“頭の悪いこと”“無駄な時間の使い方”だなんて…!

悔しい。

こんな人の為に、頑張った自分がめちゃくちゃ悔しい。

傍に置いていた鞄の中から、ピンク色のチューブを取り出した。

安堂くんがキスしてくれると思って、キスしたいって思って欲しくて、あのピンク色のお守りの隣に入れていたグロス。


「……こんなものっ!!!」


勢いよく、テーブルに投げつけた。

それと同時に、お守りもテーブルの上に落ちて、買ってもらったこのお守りを大切にしてるってバレた気がして、心底恥ずかしくなった。

お守りを手に取って、ギュッと握り締める。


「……それも、リップみたいに投げちゃうの?」


あたしがこんなに取り乱しても、お人形みたいなその顔は、いつもの通り。

ひょうひょうとしたまま。

それを見るともう、泣き出しそうなこの気持ちを、怒りで隠すことは出来なかった。



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