キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「今になって、サボったら、全部が水の泡でしょ」
いつもの軽い口調で、パンダの頭を外した。
「アンドーくんに、超かっちょいーピアス、買ってあげんじゃないの?」
ほんと、この人は―――っ。
「だからって、何で桜田くんがパンダの着ぐるみ着てるのよ!」
まさかとは思った。
なのに、本当にそのまさかだなんて…。
「なに、してるのよ…っ」
「恋のキューピット?」
「……馬鹿!あんたって本当にバカでしょ!? 所長、怒ってたよ!? 桜田が無断欠勤してるって、怒ってた…っ」
「怒ってたのはチェリーちゃんでしょ?俺が秘密をバラしたから、って」
「!」
「俺には身に覚え、ないんだけどねー?でも、チェリーちゃん、あんなに必死にバイトしてたし、今日のせいで金額届かないなんて可哀想だって思ったからさ。
あ、これ貸しね?今度のテストの時、ノート貸してよ」
「…………っ」
あんなにずっと、無視していたあたしに、それでも桜田くんはいつもの笑顔を浮かべていた。
「ごめん…っ」
あたしは俯いて、桜田くんに謝った。
こんな人が、約束を破るなんて思えない。
あたしが勝手に決め付けて、桜田くんのせいにしていただけだったのかもしれない。
もしかしたら、ナッチにバレた時みたいに、誰かに見られていたのかも――…。
「―――っ!?」
そう思っていた瞬間、突然目の前が真っ暗になった。
「わっ、なに!?」
「いいから!」
どうやらパンダの頭を被らせられたらしい。
押さえつけられているパンダの頭を、あたしは持ち上げて顔を出した。
「何よ、突然…っ」
「いや、今そこの路地に………」
「え?」
桜田くんの言葉に、あたしもそちらの路地を見た。
「いや、俺の見間違い、だったのかも…?」
桜田くんはポリポリと頬を掻いた。
そんな桜田くんに、あたしはプッと笑いが零れた。
「てゆーか、めっちゃ汗くさかったんだけど」
「む!誰のために汗だくになったんだと…!」
ハチャメチャな人だけど、悪い人じゃなさそう。
1週間、無視しちゃってごめんね。
桜田くんのおかげで、どうにか素敵な誕生日を過ごせそうだ。
そして何より桜田くんの優しさに、心の中がぽかぽかと温かくなった。