キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
美坂先生の姿に、男女共にテンションが上がる。
「5時間目、景山のはずなのにー」
「こらこら、“先生”でしょ?景山先生が急遽出張になったから、変わりにあたしが自習監督よ」
「マジ!? 自習!? やりっ」
みんな、その言葉に喜んだ。
あたしは一人、口を開けてその話を聞いていた。
今、美坂先生の姿は、見たくなかった。
「チェリーちゃん、チェリーちゃん」
身動きが取れずに固まっていると、隣から声を掛けられた。
それは金髪不良の桜田くん。
あげたトリートメントの効果か、前よりは幾分か髪の荒れも治まっていた。
桜田くんの声に、開いた口のまま顔を向ける。
「ぶぃ」
言葉なくして、呆然としているあたしに桜田くんはピースサインを見せ付けた。
その意味が分からずに、あたしは小さく眉を寄せた。
文化祭以来、桜田くんに対する印象が変わっていた。
あのラブソングは、今まで聞いたラブソングの中で1番胸に響いた。
桜田くんは淡々と、ギター一本で歌いきったけど、きっと何度も涙を流して、ようやく泣くことなく歌えるようになったんじゃないかって、
…勝手に思った。
そう思うと、ただのおちゃらけた軽い男なんじゃなく、本当はもっと………。
「じゃ、俺はここらへんでドロンしますので」
「――――へ?」
くたびれたリュックを肩にかけ、桜田くんがこっそりと後ろのドアから廊下に出る。
「ちょ、ちょっと…!」
あたしは声を落として、桜田くんを呼んだ。
「チェリーちゃん、小ぶりでも愛があれば大丈夫!気にするなっ」
桜田くんは突き上げた親指の横、パチリとウインクをして、そのまま消えていった。
小…ぶ…り…?
「――っ!!!」
桜田くんはあたしが自分の胸を見つめて、ため息を零しているのを見ていたんだ。
ただ見ただけで、小ぶりという判決が下った。
(お、男って~~~~~~っ)
顔から火が出そうなくらい、真っ赤になった。
安堂くんも、桜田くんも、
信じらんないっ!!!
シャーペンをギュッと握りしめて、悔しさに奥歯を噛み締めた。
そこで、律儀にも黒板に“自習”と書く美坂先生の姿が視界に入った。
前から思っていたことだが、美坂先生はスタイルがいい。
スーツの上からも分かる凸(とつ)。
分かる凹(ぼこ)。
脚だってスラッと長い。
たまに男子がそのことで盛り上がっていたりする。
……きっと、きっと、安堂くんも………!!