キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉



「いえ!あたし、今日から佐久良くんの家庭教師として来ました!」

「………………は?」


数秒遅れて振り返った。

今日から、俺の…、なんだって?

だけどそれは口に出さず、女のことは無視してエレベーターを目指した。


「あ、あの!今日から勉強を教えるように、ってお父さんに頼まれて、ですね…!?」

「教わんなくてもいーよ。俺、困ってないから」

「それじゃあたしが困ります!バイト代だって払ってもらってるんだし!」

「金だけもらっとけばいーじゃん。俺んちで教えてるってことにして、アンタも遊べば?夏はこれからなんだし」


到着したエレベーターに乗った。

女のことは待たずに、閉まるボタンを押す。


「…あっ!!」


なのに女は、閉まるドアに突進してきた。

ドアに肩をぶつけて、エレベーターが大きく揺れた。


「……痛ぁ…!話はまだ途中です!」


それでもその女は、強い瞳で俺を見据えた。

今度は俺がエレベーターを降りる。


「ちょっと!」

「俺は間に合ってるから。他の家、紹介してもらってよ。じゃーね」


煙草を買いに行こうと思ったのに。

俺は再び家へ舞い戻ることになった。


ピンポーン!


「…………、」


それから数秒後、玄関のチャイムが鳴る。

もちろん無視。

部屋のテレビとパソコンをつけて、チャイムは無視することにした。

それから数回、チャイムが鳴って、静かになった。

やっと帰ったか。

小さくため息をつくと、ガチャガチャ、と玄関の鍵を開ける音。

嫌な予感がして、廊下を覗くと……。


「チャイム、鳴らしたんだからね!」


怒った顔をしたその女が家の中に入ってきた。


「なんで…」

「お父さんから鍵、預かってるんです!逃げられないんだから!」

「…………、」


厄介な女を雇ってくれたもんだ。

この女、本気で地の果てまでも追って来そうだ。

俺は部屋の鍵を閉めた。

ここの鍵は存在しない。

女も成す術なくして帰るだろう。

それから、俺と女の耐久比べが始まった。

< 264 / 352 >

この作品をシェア

pagetop