キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「いえ!あたし、今日から佐久良くんの家庭教師として来ました!」
「………………は?」
数秒遅れて振り返った。
今日から、俺の…、なんだって?
だけどそれは口に出さず、女のことは無視してエレベーターを目指した。
「あ、あの!今日から勉強を教えるように、ってお父さんに頼まれて、ですね…!?」
「教わんなくてもいーよ。俺、困ってないから」
「それじゃあたしが困ります!バイト代だって払ってもらってるんだし!」
「金だけもらっとけばいーじゃん。俺んちで教えてるってことにして、アンタも遊べば?夏はこれからなんだし」
到着したエレベーターに乗った。
女のことは待たずに、閉まるボタンを押す。
「…あっ!!」
なのに女は、閉まるドアに突進してきた。
ドアに肩をぶつけて、エレベーターが大きく揺れた。
「……痛ぁ…!話はまだ途中です!」
それでもその女は、強い瞳で俺を見据えた。
今度は俺がエレベーターを降りる。
「ちょっと!」
「俺は間に合ってるから。他の家、紹介してもらってよ。じゃーね」
煙草を買いに行こうと思ったのに。
俺は再び家へ舞い戻ることになった。
ピンポーン!
「…………、」
それから数秒後、玄関のチャイムが鳴る。
もちろん無視。
部屋のテレビとパソコンをつけて、チャイムは無視することにした。
それから数回、チャイムが鳴って、静かになった。
やっと帰ったか。
小さくため息をつくと、ガチャガチャ、と玄関の鍵を開ける音。
嫌な予感がして、廊下を覗くと……。
「チャイム、鳴らしたんだからね!」
怒った顔をしたその女が家の中に入ってきた。
「なんで…」
「お父さんから鍵、預かってるんです!逃げられないんだから!」
「…………、」
厄介な女を雇ってくれたもんだ。
この女、本気で地の果てまでも追って来そうだ。
俺は部屋の鍵を閉めた。
ここの鍵は存在しない。
女も成す術なくして帰るだろう。
それから、俺と女の耐久比べが始まった。