キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉


安堂くんがゆっくりと顔を上げた。


「…今、先生の傍にいてやれるのが俺しかいない…んだ。……だから今だけは……先生の傍にいてあげたいんだ」


それは小さく、でも確実に、紡がれた。

真っ直ぐな瞳は、あたしを見据えてぶれることはなかった。


「……なん、で…?」


理解ができない。

なんで?

だって、先生はもう、“過去の人”なんじゃないの?

安堂くんが再び視線を落とす。


「…いないんだ。先生の傍にいてやれる人。あの人は両親を亡くしてて、…他に家族と呼べる人がいないんだ」

「――――……っ」


二人には、そういう共通点も、あったんだ。

二人が一緒に時間を過ごした理由。

きっと二人にしか、分からない、繋がり。


「……じゃあ、あたしのことは…?あたしとのことはどうなるの?先生と“戻る”ってこと?やっぱりあたしのこと、好きじゃなかったってこと!?」


語尾が荒くなった。

安堂くんは困ったように、それにはすぐに返事をしなかった。


「―――……ごめん」

「………っ」


ごめん、じゃ分からないよ。

なにそれ。

あたしとの時間は、全部ウソだったってこと!?

大切だって言ってくれたことも、触れ合った唇も、繋いだ手も…、あたしだけだって言ってくれた言葉も、何もかも。


『…恋の傷心を癒せるのは、新しい恋しかないんだろ?』

『だったら小林がその相手になってよ』


「―――………っ」


あたしはあくまで、傷を癒すための恋。

そういう理由で、始まったんだったね。


「……そ…っか。……分かった」


安堂くんの顔は見られずに、足元に涙が零れ落ちた。


「……小林、俺……」

「もう何も言わないで!」


語尾は甲高く、空に消えて行った。


「もう、何も言わないで……。聞きたくない、聞きたくないよ!安堂くんの顔なんて見たくない!勝手にすればいーじゃん!先生のとこでも、どこでも、好きなとこにいけばいいよ!!!」


張り裂けた言葉。

後ろは振り返らずに、家へと走った。

夜中に関わらず、玄関の音が大きく響いた。

驚いたお母さんが出てきた。

あたしは何も答えずに、部屋に走った。

部屋の窓から、外は見なかった。

携帯は鳴らなかった。

涙が止まらなかった。

胸はつぶれそうだった。


そして

恋は、終わってしまった。

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