キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
それからの1週間は、この2週間よりも早く時計の針が進んだ気がした。
気がつけば体育祭当日。
あたしがエントリーしていた、一人1種目の短距離走もあっという間に終わった。
結果は3位。
…まぁ、仕方ない。
運動部に勝てるはずがない。
「体育祭、どうやっても3年が勝てるようになってるってホント?」
……隣の男が、やる気を削ぐようなことを言っている。
もちろんそれは桜田嵐。
「なんでそんなこと言うのよ!」
「だって、実行員の子が言ってた」
「みんな知らないふりして頑張ってるの!そゆこと言うのやめてよ!!」
もー!
この男は。
ほら、周りの子たちも気まずそうに肩をすくめている。
「てか、そろそろ借り物競走の編成に並ばなくていいの?」
「あ、やべ。もう編成始まってる」
俺の勇姿を見ててねー!って大声で言ってくれるから、周りがひそひそと噂している。
安堂くんと別れて、たったの3週間で転校生とくっついてるって、聞こえてるっての。
「…………、」
安堂くんにも聞こえてるのかな?
聞こえてないよね?
興味ない人だもんね。
噂話なんて。
それに今はもう、心の中に大好きな人がいる。
気を抜けば、視線で追ってしまいそうだった。
隣のクラス。
どこにいるのか、って。
何の種目に出るのか、って。
女子がほっとかないから、意識して見ないようにするのが大変。
安堂くんの出場種目は、午前のうちに終わっていた。
『ただいまより、借り物競争を行います』
アナウンスが流れ、一際目を引く男が登場。
景山先生の血圧を上げる、歩く問題児。
太陽の下、その金色の髪は明るさを放っていて、どの姿よりも際立っていた。
…その姿、目に痛い。
借り物競走の中身は、3年生の遊び心がいっぱい詰まっている。
女子の借り物シートの中には、「男子のハチマキ」という項目があって、好きな人に借りたい!という女子の願いが込められているんだとか。
…安堂くんのハチマキ、狙ってる人いるんだろうな。
お守りは机の引き出しの奥にしまっていた。
ボタンと一緒に、ピアスも、一緒に。
あたしにはもう、必要のないものだから。
ぼんやりと膝を抱えて、借り物競走を見つめていた。
金髪の頭が、ぐんぐんとこちらに向かって走ってくる。
声援も大きく。
アナウンスも大きく。
でも、全然耳に入ってこない。
「チェリーちゃん!!」
顔の前、桜田くんに手を差し出されて、ようやく気付いた。
隣でナッチが発狂していることにも、今、気付いた。
「へ……?」
「来て!!」
「えっ!?」
突然、手を掴まれて、引っ張られた。
そこでようやく、うるさいアナウンスが聞こえてきた。
『お騒がせ転校生、桜田嵐!借り物で女子生徒を連れ出しました!これはいったい何の“借り物”なんでしょう!!』
アナウンスにも火がついて、気がつけば喧騒の中。
女子の黄色い歓声の中、あたしは桜田くんに連れられてフィールドを走っていた。
『ゴ――――ル!!!
1位、3年桜田嵐ですっ!!』