キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「わー!!」と声を張り上げて、手を振り回したくなった。
ここが、本屋じゃなければ。
でも、そんなことを出来るはずもなく、あたしは桜田くんの体を見つめたまま、ゴクリと唾を呑みこんだ。
やっぱりそこに、彼はいるのだろうか。
「……誰かいたの?見る限り、俺の知ってる顔、いないけど」
「……え?」
その言葉に、あたしも本棚から覗いた。
さっき見た、あの姿はどこにもなかった。
確かにさっき、…今の今、あの姿があったはずなのに。
「どうしたの?エアかくれんぼ?チェリーちゃん、べんきょーしすぎで疲れてんじゃないの~?」
桜田くんはケラケラと笑うと、軽くあたしの頭を撫でた。
「で、あったんだっけ?チェリーちゃん愛用の参考書」
本棚から引っ張り出されて、あたしは再びさっきの本棚の前に立った。
そこから見える範囲、見渡しても、その人の姿はない。
想いが募り過ぎて、脳が見せた幻覚?
それならますます笑える。
ここまできちゃったなんて、桜田くんにも言えないよ。
頭の中で自分自身を嘲笑し、あたしは本棚を探した。
「えーっとね……、あ。あった!あたしが使ってるのはあれだけど、ナッチが言うにはこっちもいいらしいよ」
平置きされた参考書を指差して、出来る限り明るく振る舞った。
「どれどれ」
「……ちょっと」
参考書に手を伸ばしながら、もう片方の手が何故かけしからぬ場所に置いてある。
「ん?」
声を低くしたあたしに、桜田くんは隠し切れていない笑みを含めてこちらを向いた。
「なに?」
「なに、じゃないでしょ。なによ、この手」
なぜか、桜田くんの左手があたしの肩に回っていた。
じろっと桜田くんを睨むと、わざとらしくその手を離した。
「おおっと!いつの間に!」
「いつの間に、じゃないでしょ。自分の手じゃん」
「お前はなー、気を抜くとすーぐ悪さをすんだから!…めっ!」
右手で左手を怒っている。
「そういうことはな、ちゃんと許可をもらってからするもんだ!」
「あたしは許可出さないよ」
「ちゃんと主人に聞きなさい。“ご主人様、チェリーちゃんの肩を抱いてもよろしいでしょうか?”“うむ。仕方ない。許可しよ…”ぶふっ!!!!!」
「なんであんたの許可なのよっ!!」
「チェリーちゃん、ひでー…!」
「自業自得ですっ!!」
とりあえず、参考書の角で、腑抜けた笑顔を叩いておいた。