キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉


ぶつぶつと文句を言っても、返事がなく、あたしは不審に思って振り返った。

すると、本屋の前で俯いている桜田くんがいた。

その顔が、シュンとしていて、反省しているように見えた。


「…………、」


そんな顔されると、許さないわけにはいかなくなる。

ムッとしつつも、歩み寄った。


「…もうあんなことしないって約束してくれる?」


唇を尖らせたまま、ぽつりと呟いた。


「え?」


あたしの声に気がついて、桜田くんは顔を上げた。

その顔は、特に落ち込んでいるわけでも反省しているわけでもない顔だった。


「………えっ?」


ひくっと顔を歪めて、桜田くんを見つめた。


「ありがとうございましたー」


その瞬間、数メートル先の自動ドアが開いた。


「………………っ」


そして、時が止まる。

さっき見たあの姿は、幻覚なんかじゃなかった。

今、目の前に、袋を手にした安堂くんの姿があった。



零れ落ちるほどの静寂が、辺りに散らばっていた。

自分の心音だけが世界に広がる。

真っ直ぐにその姿を見つめて、まばたきも呼吸もできないほど固まっていた。

何を言えば、いいんだろう。

何もない。

いや、言いたいことはたくさんある。

でも声になるには時間がかかりすぎて、あたしが小さく喉を動かすのと同時に、安堂くんの口元が動いた。


「――…、」

「おーっす。アンドーくんも買い物?」

「………っ」


だけどその瞬間。

言葉を発したのは桜田くんだった。

遮られた言葉に、あたしは咄嗟に桜田くんへと視線を向けた。

再び小さな沈黙が落ちて、安堂くんがそっと桜田くんへと顔を向ける。


「…ああ。気になってた参考書、やっとこの店で見つけられて」


もう、1ヶ月ぶりになる、その声。

声にならない声と、言葉にならない感情が胸の中へと押し寄せた。

真正面から見つめていられなくなって、あたしはそっと俯いた。


「……二人も、買い物?」


安堂くんが桜田くんに問いかける。

その声は、いつも通り。

何も感じていない、声。

もう本当に過去の人になってしまったんだ。

過去。

分かっていたはずなのに、こんなにも胸が痛い。

結局はあたし、心の中で思っているだけで、言葉にしているだけで、全然“過去”になんてできてなかった。

未練たらたら。

今もまだ、その声に強く胸を締め付けられる。

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