キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「どうしたの…?今日の学校、楽しくなかったの…?」
ベッドに腰かけた絵梨が俺を覗きこんだ。
「あ…、うん。まぁまぁかな」
「まぁまぁ?何か嫌なことあったって顔してるよ~?また女の子に告られて、男の子に僻まれた、とか?」
絵梨の記憶は一向に戻らない。
ただ日に日に体は回復している。
頭に巻かれた包帯と足にはめられたギプスを見る限りでは、ただのケガ人同然だ。
「…はは。……その逆。
てか、何か果物でも食べる?親父の部下って奴らが無駄に持ってきてるから」
「こら!無駄に、って。何でお父さんの部下の人がこんなによくしてくれるの?あたし、佐久良くんの家庭教師ってだけなのに」
りんごを手に取ると、絵梨が唇を突き出して考えに耽った。
「そーゆーごま擦りが何かに繋がるんじゃない?よく分かんないけど」
「ふぅーん?」
「りんごでいいの?」
「あ、うん!佐久良くんって、意外と包丁使い上手いんだよね」
絵梨が笑う。
「まぁ…。お袋が入院してる頃からちょこちょこ料理はしてたしね」
「そうそう。手慣れた手つきで料理しちゃってさー。最初見た時は可愛くないなーって思ったんだよね」
しかめっ面で俺を見上げた。
それももう、何年も前の話だ。
自分の中では過去になった話。
絵梨という存在も、この1年で過去になった。
高2が始まった頃から、二人の行く末を薄々感じてはいたけど、だからってすぐには過去には出来ないと思っていた。
でも―――。
突然現れたあの存在に、気付けば過去に変わっていた。
絵梨に感じた感情とは違う感情。
オンナなんて知ってる、って言っていた自分がただ、大人ぶっていただけなんだと気づいた。
絵梨という存在に甘えて、頼めば断られることもないとワガママ放題で、大切な相手の夢さえもきちんと理解していなかった、
ただのガキだった。
きっとあのまま絵梨と続いていたとしても、俺はそこから抜け出すことなんて出来なかったと思う。