キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
「……え?」
「ほら、もう4年の9月なのに、内定もらった覚えが全くないんだよね。大学の友達と会っても、何かピンとこないっていうか…。あたし、手術後すぐに目を覚ましたんだよね?みんながやけに大人っぽくなってたっていうか…」
大学の頃の友達には事情を話して、見舞いに来てもらった。
同じグループ内でも、俺とのことを知ってる人もいれば、知らない人もいた。
知ってる人は、別れたことも知っていた。
『辛いかもしれないけど、今の絵梨には君しかないから』と慰めにもならない言葉をかけられた。
こんな絵梨を突き放せるほど、強くもなくて。
絵梨という存在で自分がどれだけ救われたかってことを思い出すばかりで。
――きっと間違えた。
でも、こうすることしか出来なかった。
「手術後はすぐに目を覚ましたよ。…麻酔の関係で何か変な感じがしちゃうんじゃない?絵梨って催眠術とか簡単に引っ掛かりそうだし」
「なに!?」
絵梨が眉をしかめても、あえてそのままの態度でいた。
ちらりと横目で絵梨を見ると、ふくれっ面のまま俺を睨んでいた。
目が合って、その顔がふっと噴きだす。
「変て言えば、佐久良くんも変なんだよねー。なんか突然、男!って感じになっちゃって…。そんなに体格良かったっけ?」
「……成長期だからね」
「あー。何か変な感じ。何なんだろう、この違和感」
「…………、」
ここ数日、こういう会話が多くなった。
医者は、記憶が戻る兆しだと言った。
だけど一番大切なことを全く思い出せていない。
将来のこと。
夢。
あんなに一生懸命に教師を目指していたのに、その頭の中からすっぽりと消え去ってしまっている。
絵梨にとって、教師であることがそんなに辛いことだったんだろうか。
……誰のせいで?
この2年間が、すっぽり消えてしまっていることは、きっとそういうことだ。
思い出すことで絵梨はまた、嫌な思いに苦しめられることになるのか?
昔からの夢が叶ったのに、それが辛く嫌なことだなんて悲しすぎる。
……誰のせいで。
それはきっと、いや、絶対。
俺のせいなんだ。
「―――……。」
思い出さない方が幸せなのだろうか。
思い出さないまま、時が進んでいくことってあり得るのだろうか。
成り立つのだろうか。
絵梨と向き合っているとそんなことばかりが頭を巡る。
これは後悔なのか。
少しもの償いで今ここにいるのか。
もう、分からない。
ただ、学校にいる時よりはずっといい。
手放してしまったあの姿を、見るのはもっと辛かった。