キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉


「佐久良くん…?」


絵梨に声をかけられて、ハッと顔を上げた。


「どうしたの? やっぱり何か嫌なこと…」

「いや、何でもないよ。ちょっとぼんやりしてただけ。てかそろそろ帰ろうかな?ベンキョーしないとなんないし」


勉強しろ、が口癖だった絵梨に、肩をすくめて伝えると、絵梨も口元で笑った。


「そうだね。あれからずっと、毎日お見舞いに来てくれてるもんね。あともう少しでギプスも外れるみたいだけど…」

「……………。」


絵梨は足の骨折で入院していると思っている。

…いや、現にそうなのかもしれない。

だけどギプスが外れた後はどうなるんだろう。

記憶を回復させる訓練を受けるのか?

それともこのまま社会生活を送るのか?

そういう所を何も聞かされていない。

全て、医者は親父とのやり取りで俺には何も教えてくれない。

結局は“子ども”扱い。

そんな立場がひどくもどかしい。

病院を出て、斜陽を浴びながら、家を目指して歩いていた。


あのまま過ごしていれば、一緒にいるようになってもうすぐ1年だった。

同じ季節を一緒に巡りたかった。

迎えたかった。

色付いた葉を見上げて、そしてすぐさま視線を落とした。

つくづく女々しい男だと、嘲笑いたくなる。

消えない想いばかりが募って、サクラダのことを考えると堪らなく嫌で…。

どうやってこの想いを忘れていけばいいんだろう。

後悔、未練。

いっそ俺も記憶をなくしてしまえたらいいのに。

日に日に想いが強くなるだけで、伝えられない、口にも出せない。

こんな状況が死ぬほど苦しかった。


ピアスは外せないでいた。

小林が言った、ピアスに込められた意味を思い出すと、外そうにも外せなかった。

これを外してしまえば、きっと全てが終わる。

…もう、終わっている。

だけど終わらせたくない。

ぽっかり開くのは、心の穴、だけでいい。

開いた穴を見る度に、きっと笑ってしまうほど悲しくなるのが目に見えている。

やっぱり全然違うんだ。

絵梨に感じた感情と、小林に感じる感情は。

いつの間にか追い越して……いや、最初から違うモノだった。

気付くのは、手放してから。

使い古された慣用句が、そっくりそのまま当て嵌まる。


失ってから気付く代償は、とても、大きい。


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