キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
24.キレイなままで。
やらなきゃならないことがたくさんあって良かった。
勉強なんてなくなってしまえ、って今まで何度も思ったけど、今はそれが救いだった。
お知らせ掲示板に書かれる、センター試験まであと何日ってカウントダウン。
毎日が発情期だったナッチでさえ、今は真剣に参考書たちと向き合っていた。
だからなのか。
心なしか……。
「太ったの、分かる?」
「……やっぱり?」
「やっぱり!? いやぁぁぁ!! やっぱり太ったの分かるんだぁ!!」
大きめのカーディガンを羽織ったナッチが、袖で顔を隠した。
「いや。……ちょっと、ほんのちょっとだけだよ」
「目が泳いでますけど」
視線を天井へと逃がすあたしに、ナッチがドスの効いた声が響く。
「この季節ってさー、先輩たちに聞いてたけど、ホントに二つに一つなんだね。
勉強でのストレスで痩せる派か、太る派か。せめて逆の宗派でいたかった!」
ちょっとだけぷっくりした頬を膨らませて、ナッチが言った。
「いや、むしろ今の方が色っぽい気がするよ。マジで」
「!! お、いいこと言うねぇ、ヤスのくせに!」
会話に入ってきた安川くんに、ナッチは手を上げた。
手を上げただけでは留まらず、その細い身体を叩いていた。
よろけた安川くんは、踏みとどまってこちらを振り返る。
「力強すぎ!余りすぎ!」
「あんだって?」
力が強い、という単語も今のナッチにはNGワードだったらしい。
心の中でメモを取り、二人を眺める。
二人の関係は前よりも近いところにある。
それは友人という枠を越えて、むしろ恋愛という枠さえも越えて…。
「夫婦漫才、的な?二人の会話って、苦楽を共にした熟年夫婦っぽいよね」
「ちょっ…!! 何言ってんだよ、知枝里ちゃん!!」
ぽつりと呟いたあたしに、安川くんが反応した。
ナッチはふんっと鼻を鳴らしただけだった。
「知枝里、パス!こんな奴、相手にしてらんないわっ!」
ナッチは冷たく言い放つと、あたし達を置いて教室を出て行く。
「……ナッチ、最近怒りっぽいよね」
「受験へのストレス、かな?それとも俺のせい…かな?」
隣に立つ安川くんが、小さく頭を掻いた。