キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
安川くんの返事に何かを期待していた。
恋が一種類なら、安堂くんがあたしに抱いてくれた感情も“恋”であったと思いたかった。
でも、恋は一種類じゃないんだ。
いくつかの“恋”があって、いくつもの“好き”がある。
「ヤスと何話してたの?ヤス、今もまだ知枝里のこと、諦めてないっぽいね」
教室に帰ると、参考書を見つめたままナッチが言った。
その横顔に不機嫌だと書かれている。
「違うよ。安川くんが、あたしのこと好きなわけないじゃん」
「そうでもないみたいよ~?ヤス、好きな女いるみたいだし」
「え?」
「メールでそんな話してた」
安川くん、言えないとか言いながら、ちゃっかりそんな話してるんじゃん!!
「ちょ…。それ、誤解誤解」
「知枝里は知ってるわけ!? アイツの好きな人!」
ナッチが鼻息荒く食いついた。
「い、いやぁ~…。知らない、よ…?」
「嘘!あんたが嘘をつく時ってたいてい視線が斜め上なのよ!」
ナッチに言われて、あたしは自分が斜め上を見ていたことに気が付く。
「ホントに知らない」
今度はナッチの目を見て言った。
「嘘をつく時は、たいてい人は視線を逸らさないって心理学のドラマで言ってた!」
「う゛」
「ちょっと、教えてよ!あいつの好きな人って誰!? 気になってイライラするのよ!!」
力の強くなったナッチに揺さぶられて、あたしは首がしなった。
そのイライラの原因って、つまり…。
「それって、安川くんのことが気になる、ってこと…!?」
揺さぶられながら問いかけると、ナッチの手がパッと離れる。
「は……まさか」
「そう?だったらいいんじゃない?知らなくても」
ちょっとだけ意地悪を言ってみた。
するとナッチは言葉に困って、頬を膨らませたまま椅子に座った。
「そう。全然いいのよ。知らなくても」
もしかして自分でも気づいていないのかな?
あんなに恋愛主義だったのに、いざとなると気付けないものなのかな?
それってつまり、 本当の恋に出逢った、って……こと?