キミの隣で恋をおしえて〈コミック版:恋をするならキミ以外〉
放課後、ナッチと安川くんの両想いのくせに両想いと気づいていない痴話喧嘩に付き合っているのも気が引けて、あたしは一人、図書室を目指していた。
「あー!いたいた!チェリーちゃーん!」
「…………、」
後ろから、バカでかい声。
噂にすらならなくなった、あたし達の関係。
「……何」
「うわっ、ひでー顔。どした?アンドーにフラれた?」
「………、」
イラッとして、近づいたその足を思い切り踏ん付けた。
「痛っ」
「デリカシーのない奴!!」
「ちょっとちょっと~。それじゃ、図星ですって言ってるようなもんじゃない~。
マジで~?まだ諦めてないのー?俺と恋愛始めようって気、起こらないの~?」
本当に、この男。
いつも軽い。
常に軽い。
「好きな人いるくせに」
「そ。それがチェリーちゃん」
「ウソつき」
「嘘じゃないよー。ボク、今まで一度だってウソついたことなんかないのに」
「そう言いながら、堂々と笑ってんじゃないわよ。……てか、何?」
桜田くんに辛辣な瞳を向けた。
すると桜田くんの表情が、少しだけ真面目に変わる。
「さっき印刷室で、面白い話聞いちゃった」
頭の後ろで手を組んで、その口元が愉しそうに笑った。
「…呆れた。まだあそこに入り浸ってるの?」
「あれ、キョーミない?面白い話聞きたくない?」
にししと笑う顔。
これみよがしに煽るので、何だか素直に言いたくない。
ふいっと顔を背けて、図書室を目指して歩みを再開させた。
「べっつに~!桜田くんの“面白い話”ってたいてい面白くないし」
「ひでー!ちょー面白いのに!自分でハードル上げちゃうくらい面白い話なのに!」
ほらっと言わんばかりの顔に、ますます“聞きたい”とは言いたくなくなって、あたしは小さく目元に力を入れた。